ゆらのと

□第一部 二、
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銀時はため息をついた。
桂の肩に手を置く。
「あきらめろ。そんなことやってたって、ヤツぁ、テメーに近づいてこねーよ。ホラ、あの眼を見てみろ。テメーのことなんざこれっぽっちも信じちゃいねーって眼だ」
「そんなことはない。それは貴様の心の眼がゆがんでいるからそう見えるんだ。本当は素直になりたくてもなかなか素直になれないだけだ。俺にはそれがわかる」
「そりゃテメーの願望だろ。そのうちヤツは近づいてくるどころか逃げちまうんじゃねーか」
「……」
桂は言い返してこなかった。
煮干しを道に置き、立ちあがる。
それでも未練がましく茶トラ猫のほうをじっと見ていたが、やがて、しぶしぶといった様子で塾の方角へと歩き出した。
だが、しばらく進んだところで足を止め、振り返る。
茶トラ猫は煮干しを食べていたが、ビクッとして、動きを止めた。
警戒しきった眼を桂に向ける。
桂は悲しそうな表情になり、猫から眼をそらし、ふたたび歩き始める。
その足取りはいつものようにきびきびとはしていない。
落ちこんでいるようだ。
バカだ。
銀時はあきれる。
バカで、石頭で、クソがつくほど真面目で融通が利かない。
桂には短所がいくつもあり、それを幼なじみの銀時はよく知っている。
けれど。
情に厚く、優しい。
長所もよく知っている。
短所も長所もよく知った上で、一緒にいたいと思う。
一緒にいると、心の中の空いているところになにかが満ちていく気がする。
自分にとって、たったひとり。
特別な。
バカバカしい。
桂は男だ。
ありえない。
そう否定する。
考えることも、思うことすら、拒否する。
だが。
夜、夢をみる。
桂を抱く夢をみる。
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