ゆらのと
□第一部 二、
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「あ」
しばらく歩いていて、ふいに、桂が声をあげた。
その足は止まっている。
ついつられて銀時も立ち止まり、桂が見ているほうを見る。
猫がいた。
以前にも何度か見かけたことのある茶トラの野良猫だ。
その猫を桂はじっと見ている。
「……あのやわらかそうな毛皮をなでたい。ふっくらした肉球をさわりたい、頬ずりしたい」
独り言のように桂はぶつぶつと言った。
銀時は眼を細める。
「おーい、気持ち悪ィ欲望が口から垂れ流し状態になってんぞ」
桂は犬や猫が好きなのだ。
「てゆーか、アイツがてめーにさわらせるわけねーだろ。近づいただけで逃げていくんだからな」
「いや、それはどうかわからん。我に策あり、だ」
「はぁ?」
銀時は眉根を寄せた。
すると、桂は得意げな様子でなにかを取り出した。
その手にあるのは、煮干し、だ。
「……なんだって、テメー、そんなもん」
「こういうときのために決まってるだろうが」
「いや、決まってねーよ。てゆーか、こーゆーときのために常時持ち歩いてんのか、ソレ」
「もちろんだ」
真顔で桂はうなずいた。
銀時はポカンと口を開けた。
しかし、桂はそんな銀時の様子をまったく気にせず、ふたたび茶トラ猫のほうを向き、道に腰をおろした。
そして。
「ほーら煮干したぞー、あげるからこっちにおいでー」
煮干しを振って、誘う。
しかし、猫は近づいてはこない。