鷹の爪関連
□聖徳者の尾籠
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将総で、カニバ予備軍の将軍。
世界の行く末を巡り争っていた鷹の爪団総統こと小泉鈍一郎は、現在では私の中で「恋人」という地位に落ち着いていた。
自分のことにはとんと鈍いが他者には思慮深さを見せる。
非の打ち所は山のようにあるが、それを訂正させたいとは考えなかった。
そんな奴だが、ひとつだけ気になることがある。
全てが終わってからというもの、奴は私に悪態をつくことすらしなくなったのだ。
当時はあんなにも私のことを目の敵にしていたというのに。
だから一度レオナルドに、私のことを鈍一郎が何と言っているのか尋ねたことがあった。
他の奴に聞くとどんなデマを吹きこまれるか分からん。
レオナルドはしばらく考える素振りを見せると、ポツリと零した。
「そう言やぁ、お前と付き合いだしてからは昔の話蒸し返したことないな、あいつ」
まあ、もう敵でも何でもねぇしなぁ、とそれだけ言い残し、途中の作業があるからとそこで話を打ち切られた。
その場に取り残された私は一人考える。
感情というものはおいそれと消せるものなのだろうか。
もしそうであれば、奴の嫌う戦争なんてものは一生起きないだろうし、奴が世界平和のための世界征服なんて馬鹿げた目標を20年以上もの間掲げていれるはずがない。
挙げられる様々な仮定を脳内で追及しては消し、追及しては消し、そうして漸く私はひとつの結論に行き着いたのだった。
「痛っ」
味をみて欲しいと半ば強引に連れてこられた台所。
小皿によそられた汁を啜る傍らで、副菜の下準備をしていた鈍一郎から小さな呻きが聞こえた。
左の指の先が赤くなっているところをみると、どうやら包丁でそちらの指を切ったらしい。
奴が何か動作をする前に、その左手をつかんだ。
「浅いな。舐めれば治るだろう」
球状にまとまった血が虚空に零れそうである。
その指を自分の口元に運ぼうとした時、奴が狼狽しだした。
「いっ、いい!自分でやるから!」
「気恥ずかしいのか。だが、周りに誰もいないだろう?構わないじゃないか」
軽く論破してやると奴は押し黙ってしまった。
それを了承の意でとり、指に舌を這わせる。
そうだ、あの時の問い。
憎悪も悲哀も噛み砕き、呑み込んで吐き出していないのなら、それらの感情は何処に消えたのか。
答えは簡単だ。
その血肉になっているに決まっているではないか。
そう結論づけた途端、私は奴の血の味を試してみたくなった。
綺麗事を吐く奴だけが全てでないと証明する為に。
周りの人間が知っていることだけが、奴の全てにならないように。
私しか知らない、奴を見つける為に。
指先から溢れた血は美味とは形容し難い味をしていた。
それが堪らなく私をそそったのは言うまでもない。
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清濁飲み込んで総統を愛したいからってカニバに走る将軍とか…ねっ。