風舞の音に散る花
□第卅伍話
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「……はぁ、危なかった…」
屯所を一歩出て、私はようやく堅苦しかった息を吐き、胸を撫で下ろした。
まさか山南さんが咲華と千鶴ちゃんに斬りかかろうとしているところに遭遇してしまったとは…
まぁ、それ以上に、実験の事があの人だけじゃなく、咲華にまで伝わってしまったのは予想外だったのだけれども。
……咲華…まさか何か、もう気付いているんじゃないかしら…
翠華様は、私が呪を使うことで姫神子の力の覚醒は促進されると言っていたし……
「……ううん、今はそんな事を考えてる場合じゃないわ。一さんに手紙を届けないと」
こうして屯所から出る事も、仕事を任されるのも久しぶりで
私はいつも以上に張り切っていた。
……それに、
一さんと逢うのも、何だか久しぶりだったから、
嬉しくて駆け出さずにはいられなかった。
――――――
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走ったと言っても出たのがもう夕刻近かったので、目的地にたどり着いた時にはもう日は暮れてしまっていた。
ここ天満屋で、一さんは紀州藩の公用人の護衛として宿を取っている。
お店の人にお願いして、一さんを呼んでもらうことにした。
「一さ……じゃない…山口さん。お呼び立てしてすみません」
「美咲……お前が来たのか」
一さんが出てくると、私は思わず本名を言いかけてしまった。
任務中の一さんは、山口という偽名を使っていたのだった。
一さんは私を見て、少し驚かれたようだった。
…そんなに、意外だったでしょうか……
「あの…すみません…、私では頼りなかったですよね…」
「いや、そうではない。少し意外だっただけだ。
そろそろ何らかの連絡がある頃だとは予想していたが、お前を使いに寄越すとはな」
「?」
「腕も人間も信頼できる幹部連中や顔を知られた隊士ではここがばれてしまうし、新参の平隊士では間者やもしれないという事を考えれば、疑われることもなくどこの回し者であるはずもないお前を寄越すのも道理だが…
……最近、忙しいようだったからな……」
「!」
……もしかして、実験の事を言ってらっしゃるんでしょうか…
確かに、こんな役目は千鶴ちゃんでもできたものね
……でも、気遣ってもらえたのは、少し嬉しい。
「…いえ、大丈夫です。偶には気晴らしにと、土方さんが気遣ってくださったんです」
「そうか…では、書状を」
「はい」
土方さんから預かった書状を渡す。
一さんは素早く目を通すと、外に出してあった天満屋の提灯の火に入れて燃やしてしまった。
「えっと……もういいんですか?」
「もう目は通した。こんなものをいつまでも残しておいては、どんな間違いが起こるかわからない」
「なるほど…」
「役目、ご苦労だったな。感謝する」
「い、いいえそんな。これも任務なので」
そう言いつつも、やっぱり感謝されるのは嬉しかった。
少しでも役に立てたのだから、頼まれた仕事にも達成感を感じた。
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