風舞の音に散る花

□第卅話
1ページ/7ページ

慶応三年 十一月



木枯らしが吹く、京の大通り

もう結構な間ここにいるけど、私は未だにこの急な寒さに慣れていない。


「うぅ……もう冬も間近ですね」

「すっかり風が冷たくなってきたからな。
けどよ、今は昼だからまだましな方だぜ? 寒い夜の巡察がどれだけ辛いか……」

「ですよねー…」


今日は久々に左之さんと巡察に出ている。

これでも私は北の方の出身だけど、今日は徐々にではなくいきなり寒くなってくるのでたまったものじゃない。

隊士の皆さんがどれだけ夜に苦労するのかも、なんとなくわかる気がする…


「そう言えばよ、美咲」

「? はいなんでしょうか」

「最近夜遅くまで仕事してるらしいが、体は大丈夫なのか? 研究に力入れてくれるのは俺達としては確かにありがてぇが、お前が倒れられたら話は別だからな」

「あ……はい、大丈夫です。もう一段落しましたから」

「…そうか、ならいいが。ちゃんと咲華に声かけてやれよ? 心配してたぞ」

「……えぇ」


左之さんの言葉に、私は曖昧にしか答えられなかった。

あの夜から、山南さんは変若水の研究に今まで以上に没頭している。

私も出来るだけ平然としているけど、本当は彼がいつ私の血に気付くかと怯えている…

その時は勿論、差し出すしかないだろう。

代わりに咲華が目を付けられでもしたら……


…ごめんね咲華

帰ったら、ちゃんと話してあげないと。


「――! あれ、新八さんですよね?」

「ん?」


ふと向こうの方を見ると、同じ浅葱色の羽織を来た一行を見つけた。

体格がいいその人は、新八さん達二番隊だった。


「よぉ美咲ちゃん。外出るのは久し振りじゃねぇか? だったら左之じゃなくって俺と廻ればよかったのに」

「馬鹿、お前と行かせるとろくな事ある訳ねーだろうが」

「んだと?」

「あ、あの…道の真ん中で喧嘩はやめましょう?」



お二人のやりとりは言葉遣いはぶっきらぼうだけど、やっぱり仲は良いんだといつも思う。

本当に兄弟みたいというか…

でも――


「……平助君もいたらなぁ…」

「美咲ちゃん…」

「!! ご、ごめんなさい! お二人の気持ちも考えずに」


思わず口を滑らせてしまって、お二人の表情を曇らせてしまった。

もう半年以上も前の事なのに……


「いいんだよ。謝る事ねぇって」

「左之さん……」

「そうだぜ。
…でもまぁ、変わっちまったってのは、世間でも新選組でも同じなんだけどな」

「世間でも…? それって、幕府が朝廷に政権を返上した事とかですか?」


少し前に起きた幕府の動きについて思い出すと、新八さんはふむふむと先生のように頷いた。



.
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ