確かなメロディー(弐)

□第五十八話 帰郷
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最初は数人乗っていた電車も、駅に止まるに連れてどんどん数は減っていき、

ついには、車両で二人きりから電車に二人きりなってしまった。


…もちろん、運転手さん車掌さんは除くけど。



そして終点になって、私達はようやく電車から降りた。


この駅以降は線路は無くて、三両編成の電車は逆向きに戻っていった。



『ようやく、着きましたね』

「あぁ、随分遠かったけどね」

『えっと……あの、………

あとこれから三時間ほど歩きます』

「………」

『……』

「………マジでか」

『スイマセン……』



お疲れなのに本当に申し訳なかったけど、

静雄さんは怒ったりする事も無く、歩いてくれた。




小さな商店街を通り抜けて坂道を登りながら、私は静雄さんに話しかけた。



『静雄さん、家に着く前に少しお話しておく事があるんですがいいですか?』

「ん、あぁ」

『……御存知だとは思いますけど、私の家は忍(しのび)から始まる始末屋の一家です』

「……あぁ」



暗い話……だけど、ちゃんと知ってもらわなければならない話。


静雄さんは一瞬間を置きながらも、ちゃんと答えてくれた。



『静雄さんと出会う2年前、私と兄さん達は一人前の始末屋として家を出ました。今回集まるのは、簡単に言えば現状報告の様なものです』

「………」

『喧嘩や殺しを嫌う静雄さんには喜ばしい事ではないのはわかっているのですが、私達は好き好んでこの仕事をしているのでは無いんです。言い訳してるみたいなんですが、その事だけはわかっていて欲しいんです』



坂道の途中で立ち止まったまま、私は俯いて話した。


しばらく、無言が続いた。


…でもしばらくして、

頭に、何か温かいものが触れた。


静雄さんの手だった。



「お前が楽しんで人を殺す奴じゃないって事は、俺がよく知ってる」

『……静雄さん…』

「もちろんお前の兄貴達もな。俺はちゃんと桜を信じてる。だから、大丈夫だ」

『……あなたには、支えられてばかりです』

「俺もお前に支えられてるんだ。お互い様だろ」

『そうですね』



顔をあげた私は、ちゃんと笑顔でいただろうか。


私達は何となく手を繋いで、また坂を歩き始めた。




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