確かなメロディー(弐)
□第五十七話 手紙
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日本某所
山に囲まれた、とある土地
昼間なのにどこか暗い雰囲気を漂わせる、大きな屋敷が一つ建っていた。
大きな庭の木の枝にはカラスがニ、三羽程留っていて、
時折ギャアギャアッと不気味な声を上げていた。
その庭が見える部屋に、一人の女性がいた。
表情こそは俯いて見えなかったが、
目の前の文机には白い紙と、筆が置かれていた。
「………」
しばし紙を見つめていた女性は、ふと庭の方を見る。
曇天の空を背に、漆黒のカラスが鮮やかに見えた。
しかしその途端、
カラス達は何かを感じたように一斉に木から飛び立った。
まるで、何か恐ろしい者から逃げるかのように……
「……これもまた…いた仕方ない事、……か……」
その様子を見ていた女性は、ポツリと独り言のように呟いた。
とても哀しそうに……
そして、彼女はまた紙と向き合った。
細い右手が、スッ…と筆を取り、
汚れの無いその白い紙に、黒い文字を書き始める。
スラスラ…
スラスラスラ………
筆が紙を撫でる音だけが、そこにはあった。
。