風舞の音に散る花

□第廿参話
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九月も終わりが近づいてきた。


まだ暑さは健全だけど、いつ木枯しが来るかもわからない。

私は近頃、よく天気を見る事が多かった。

理由は一つだけで――


『あ、総司さんまたそんな格好でいたんですか!?』


病だってわかっているのに、総司さんは全然自分の体調を労わろうとしない。

今も稽古を終えたばかりなのに、汗を拭かずにそのままで…


『稽古の後はちゃんと手拭いで汗を拭いて下さい! それからちゃんとお水を飲んで。じゃないと夏風邪になっちゃいますよ!?』

「わっ…! 咲華ちゃん最近過保護すぎやしない?」

『過保護にもなりますよ』


懸命に背伸びをして、背の高い総司さんに強引気味だけど手拭いを押し付ける。


まったく、何でこの人はこんなにも無頓着なの?

ただでさえ静かにしてなきゃいけないのに稽古するし!


『明後日松本先生が診に来てくださるんですよ? これ以上悪くなったらどうするんですか』

「そんなに気にしなくても大丈夫だって」


これでも私は怒ってるつもりなのに、総司さんはいつもの笑顔を絶やさずに言ってきた。


「最近、結構調子がいいんだ。気だるさも全然無いしね」

『え……そう、なんですか?』

「うん。自分でも不思議なくらい元気だよ」


正直、私は驚いた。

確かに、最近彼はあまり咳が出ていない。

病の徴候であるはずの喀血も無い。

これって……労咳が治まってきたってことなの?

……………

嬉しい事のはずなのに、私はどこか腑に落ちない。


『……なら、いいんですが…』

「どうしてそんな顔なの? 嬉しくなかった?」

『っ、いえ! そういう訳じゃないです!!』


……そうだよ、ね。

ちゃんとした生活をしていれば、病だって静かになるもんね。

喜ぶべき事だもの。しっかりしないと。


無理矢理になりつつも自分を説得して、私は戸惑いを消し去った。

先生に診てもらえば、はっきりした事がわかるはずだ。

 

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