確かなメロディー(弐)

□第五十四話 本当の私
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『ねぇ、あなた達は何がいい? 私もと殺し屋だから、ナイフ以外にも何でも持ってるよ?』



睨んでくる残りの人達に、私は笑みを見せる。

もう一人の“私”のような、冷たい楽しそうな笑みを。



『何がいいの? 鉄板の角で殴られたい? ペン先で目を潰されたい? あ、お勧めはホッチキスかな。あれで耳とかとめたら面白そうじゃない? 他にはね〜……』



適当に言った物ジャラジャラ出したら、男達の顔はどんどん青ざめていく。



よし、止めだ


『何もないなら、さっさと帰ってくれませんか? こう見えても私平和主義なんだからさ。あと、警察に訴えても無駄だからね。そこん所覚悟して下さいね?』



ニッコリ笑ってやったら、全員車の方に逃げて行った。



なんだ、つまんないの


まぁ、茜ちゃんがいる=粟楠会の人が見てただろうし、地獄送りはそれで勘弁してあげようかな



私はさっき捨てたナイフを拾って、刃についた血に顔をしかめる。

すると、



「く、くそ! なんなんだよこいつら!」

「誰だよ! 静雄への人質になるとか言った奴ぁよぉ!!」



……は?



向こうから聞こえた声に、私の中の血が一気に熱くなったのがわかった。



その為に私達を襲ったの?


ふざけんのもいい加減にしろよ


やっぱ地獄の底送りにしてらろうか



私は血がついたままのナイフを思いっきり握り締め、逃げた男達を追おうと思った。


でもその前に静雄さん達が帰ってきて、彼ら全員蜘蛛の子を散らすように逃げてしまった。


正面からぶつかる度胸もないくせに、誘拐なんてすんなよ。


………


ちょっとしたら頭がさめてきて、自分が血のナイフを持ってることに寒気がした。



あぁ……やっぱり、駄目なんだ


どれだけ闇から逃げようと、

どれだけもう一人の自分に頼ろうと、

本当の私は、血に飢えている事に変わりないんだ……



そんな事を考えている自分もまた客観的に見ると、愚かでしか見えなかった。





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