風舞の音に散る花

□第廿話
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姉様の言葉で広間に集まったのは、全部で九人。

全員、私達が初めて新選組に来た時と全く同じだった。


私と姉様が土方さんと正面になるようにして座る。

雰囲気が硬くて私は落ち着かなかったけど、すぐ近くに総司さんがいてくれたのが、唯一の救いだと感じた。


「……では、私達が今まで話さなかった事について全てお話します」


最初の姉様の言葉は、静かだった。

ちらりと横目で見てみると、いつもより瞳に光がないように感じた。


「まず始めに言いますが、私達は人間ではありません。風間達が言う“鬼”の種族に入ります。彼らの力については、戦った事のある皆様ならわかるはずです。本来なら鬼達は人と関わりを持つ事を避け、ただ静かに隠れ暮らしています。
その鬼の中には、特別な力を持つ一族が存在します。神と同等の力を持つ鬼――“神鬼”と呼ばれる一族です。神鬼は人と鬼が深く関わってしまわないよう監視する役目と力を持っています。故に彼らは鬼の中でも重要な存在とされ、知る人も数多くありません」

「その神鬼って言うのが、お前達…って訳か……」


土方さんが呟くように言って、姉様は頷いた。

この場にいる誰もの視線が、私達に集中するのがわかった。


「私達細川家は神社の神子として、その務めを果たすのが役目です。そして幾年か昔、私達は姫巫女、奏巫女としてその役目を引き継ぎました。その時は北の故郷で家族や分家の方々とひっそりとだけど穏やかに暮らせて、本当に幸せでした。
……あの日が、起きるまでは……」

『………』


言葉がそこで切れて、私は姉様の方を見た。

姉様は両手を膝の上で握り締め、何かに耐えているような表情だった。

苦しんでいると、私は直感できた……


『…姉様、全部姉様が話さなくても私が……』

「いいえ、大丈夫……」


代わろうかと言う前に遮られた。


どうして、そんなに私に話させないのか……


私にはそれがわからなかった。


「神鬼の存在を知る人は、幕府の中でも高い権力を持つ人だけです。古来より時の権力者達は鬼の力を利用しようとしてきましたが、今の幕府はそれでは飽き足らず、その上の力を求めようとしました。それが西洋の鬼――羅刹です。
しかし羅刹を人の力で操るのは不可能と言ってもいいです。それを操る力を得るため、幕府は神子に手を貸すよう命じました。先代神子であった私達の母はそれを断わりました。戦いの為の力は破壊しか生まないと、そう考えていたのでしょう。
……そして二年前のあの日、ついに私達の郷に羅刹が送られました。目的は一族の中でも特に強い血と力を持つ私達でした。
母様達は私達二人を里から逃がし、羅刹達を食い止めようとしました。でも……今まで一緒に暮らしてきた人達を見捨てるなんて、私達には耐え切れませんでした。戻った私達の目の前にあったのは、燃えて消えようとする家々と、血に狂った異形に次々と殺されていく人々と母様の姿でした……
その時、私は無意識に神子の力を使ってしまいました。どんな理りも全て言葉通りに捻じ曲げる奏神子の力――“呪言”です。でもまだ完全に力に目覚めていなかった私はそれに失敗しました。そしてその失敗した力は咲華の封じられいた力を開封してしまい…、憎しみの力に乗っ取られた咲華は、羅刹を殺していきました……
それを私はどうにか止められましたが、私達の里はもう滅びたと同然でした。私はこんな恐ろしい事でこの子が苦しまないよう記憶と力を封じました。…と言っても、もう記憶は戻ってしまったんですけどね……」



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