風舞の音に散る花

□第捨玖話
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『“……あははっ!! あはははは!!!!”』

「え……?」


すぐ近くから笑い声と変な音が聞こえて、私は強く瞑っていた目を開けた。

その声は私が今まで何度も聞いてきた、でも今まで一度も聞いた事のない笑い声だった。

そして変な音は、鋭い刃が羅刹達を次々に斬り殺していく殺戮の音……


それは――


「咲華……な、の…?」

『“咲華? それがこの子の名前なの?”』


咲華ではあったけど、咲華ではなかった。

漆黒の髪に額の四本の角、そして金色の瞳……

それが表すのは、彼女が神子の真の姿に戻った証


でも……神子になったからと言って、こんな事になるはずがない。

なら、答えは一つ。


咲華の中に眠っていた内なる力が目覚めてしまった……


「どう、して……どうしてっ!?」

『“どうして? 変な事を聞くのね。そんなの簡単よ。

あなたが望んだんでしょ? 目の前にある全てを消すってさぁ!!”』


咲華の体を借りている“彼女”は、自分の頬についた返り血を指で掬って、
その血を舌で舐め取った。

まるで、血に飢えた羅刹と同じように……

その仕草に、私はぞくりと寒気のようなものが走った。


「やめて! こんな事、私は望んでなんかいない!! こんな事の為に! 私は力を使ったんじゃない!!」

『“あはは! 今さらもう無理よ!! だってさぁ!! 私にも止められないもの!! この子だってあなたを守りたくてこれを望んでたみたいに叫んでたんだから!!”』

「っ!?」


“彼女”はその間にも、ずっと虐殺を続けていた。

次々と羅刹を斬っていくその動きは、剣舞のように本当に美しかった。

でも、見ている私はそれを喜べなかった。

それがどれだけ美しくても、それがどれだけ私を守るためであっても、
私が本当に望んでいた事とは、全く違う事だったから……



だから私は母様から渡されたあの宝刀を抜いて、咲華の背後から迫っっていった。



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