風舞の音に散る花

□第捨玖話
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どれだけ長いと感じても、夜は必ず明けるもの。


東の山からお日様が昇ってきて、里を照らす。

でも、そこはもう里と呼べなかった。

真っ黒に焦げ残った柱だけの家々と、真っ赤に染まった人と異形の骸。

ただ鬼の姿のまま倒れた咲華と、そのすぐ傍に呆然とつっ立っている私だけが、唯一命を残していた。

足元に倒れている咲華を見下ろしたまま数刻そのままの私の右手には、
彼女がずっと持っていた血まみれの刀とはちがって全く汚れていない、宝刀があった。


「“……いい判断をしましたね”」

「……っ!?」


突然すぐ近くから声が聞こえて、私は久し振りに体を動かせて驚いた。

必死に辺りを見回しても、生きてる人なんて全く見つからない。


「“私でないと、彼女は止められない。もちろん、私を止められるのも彼女だけなのだけど”」

「だ、誰っ!? どこにいるの!!?」

「“ずっといますよ。あなたの中に”」

「……え?」


冷静になって聞いてみると、声はどこからも聞こえていなかった。

私の頭に、直接聞こえていたのだ。


「あなた……は?」

「“初代奏巫女――翠華と申します。まぁ、今は魂だけの存在ですがね”」


翠華……一番最初の奏巫女となった神鬼

神鬼は“浄化”を司る神と鬼の間に生まれた一族の子孫と言われている。

そしてその最初の神鬼こそが、二人の姉妹だったと伝えられている。


そんな事を思い出していると、翠華様の声が少し悲しみを帯びた。


「“姫巫女は、私の姉――蒼華の魂によって精神を感傷され、危険な状況でした。あの時点であなたが止めていなければ、この程度では済まなかったでしょう”」

「蒼華様に……でも、どうしてそんな事が!? 咲華の力は、母様達が封じていたはずじゃ……」

「“それを、あなたが解いてしまったのです。奏神子の力――呪言で”」

「っ!、……」


翠華様は優しくだけど、厳しい事実を話した。

私にも、自分が呪言を使った自覚はあった。

でも、こんな事を望んではなかった……

失敗、してしまった……

まだ目覚めてもいないのに、無理矢理使ってしまったから……



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