確かなメロディー(弐)

□第五十一話 call you
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携帯の向こう側から、苦笑の笑い声が微かに聞こえた。




≪まぁ確かに、意外と言えば意外だったかな。かけてきたのが桜にしても君にしても、恨みの言葉だけかと思ってたよ≫

『えぇ……そうですね。でも仕方ありませんよ。どっちがかけても、話す内容は桜が決める事で、私じゃない。
……それと臨也さん、一つ誤解されてると思うんですが』

≪?≫

『“私”も、あなたを恨んでるわけじゃないんですよ?』

≪え……、でも≫

『だって……、どれだけあなたが静雄さんを陥れようとしても、どれだけあなたが平穏を崩そうとしても、あなたが私達の師である事に変わりはないんですから』

≪っ!?≫




これだけは、何があっても変えられない事実


いつもなら、こんな事なんてすぐ捨て去れたのに…


あぁ……、どうしてかな


何で今、“私”は……

こんな風に、笑ってるんだろ…


どうして臨也さんの声が聞こえた時、

安心なんてしたんだろう…




『ただの思念の“私”に言われるのは、やっぱり癪でしたか?』

≪……いや…、別に≫

『そうですか……』

≪……ねぇ、“桜”≫




改めて名を呼ばれて、一瞬“私”は戸惑って何ですかと答える。


同じ名前なのにどっちを呼ばれたのかは、感覚的に判断できた。




≪桜は、今まで好きな人なんていなかったの?≫




情報屋らしくない事を聞いてくるんだな、この人は……



『えぇ、いませんよ。静雄さん以外はね』

≪……っ、≫

『あははっ、桜は鈍感中の鈍感ですからね。四年も続いたあなたの片想いにも全く気付いてなかったんですよ?』




ちょっと皮肉気味に言ったのは臨也さん向けだったのか、

それとも“私”自身だったのか……





ちょっと調子に乗りすぎたかな……


向こうの携帯が握られる音してるし




『ごめんなさい。さっきのは禁句でしたか?』

≪……へぇ、気付いててくれたんだ…≫

『“私”は、ですけどね。ほんっとに、自分自身が情けなく思えてしょうがないですよ』




こんなに周りの人から愛されているのに、気付かなかったなんて、

最悪だよ、最低だよ……桜



何故なのだろうか、

“私”は自分自身に……桜に、嫉妬していた…





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