風舞の音に散る花

□第捨捌話
2ページ/10ページ

夜中の屯所の廊下を走ると、部屋の前には一君がいた。


「一君!」

「総司……」

「美咲ちゃんは…、中にいるの?」


一君は言葉では答えないで、無言で一度頷いた。


「入らせてもらうけど、止めないでよね」

「………」


止められるかと、正直思っていた。

でも一君は意外にも、部屋の前を開けてくれた。

もちろんさっきの土方さんと同じ、曇った表情で……


襖を開けると、そこはいつもの知っている部屋ではない感じがした。

火がついている灯にも明るさがなくて、音も何もしない。

咲華ちゃんという存在がないのはどれだけ暗いのか、思い知らされたようだった。

そんな何もなく部屋に、一人でいたのは美咲ちゃんだった。

彼女は俯いて表情を長い髪で隠したまま、膝に乗せている刀を握り締めていた。


「……美咲ちゃん?」

「……沖田さん、ですか」


美咲ちゃんは今にも消えそうなくらい細い声で呟き、顔を少し上げた。

見上げてくるその瞳に、息を呑んだ。

その……今までとは明らかに違う、金色の瞳

そして、明らかに人ではないと思わせる額の四本の角…


「そんなに驚かなくても、外見が変わっただけで中は変わってませんよ」


僕の心を読んだかのように、美咲ちゃんは苦笑気味の微笑みを浮かべた。

確かに瞳と角以外はつい今までのままで、話し方や表情から、彼女が咲華ちゃんであると確信が持てた。


「…二条城での事、土方さんから聞いたよ」

「……そうですか」

「咲華ちゃんに何が起きたのか、教えてもらっていいかな?」

「少し待って下さい。もうすぐ終わりますから」


咲華ちゃんはそれだけ言って、また俯いて刀を握り締めた。

……気のせいかもしれないけど、その時その刀は、
光も当たっていないのにぼんやりと光を放っているようにも見えた。


しばらくして、彼女はふと目を開けた。


「……やっぱり、まだか」

「………?」

「咲華については、もう少し経った日にお話します。あの子の意識はまだはっきりと戻ってきていません」

「そこまでわかるの?」

「この状態なら、ですが」


そう言いながら、彼女は元の姿に戻った。

その話を本当だと確定はできないだろうけど、咲華ちゃんの事に対する美咲ちゃんの事はよくわかっているから、本気だと信じられた。



それから二日経っても咲華ちゃんは帰ってこず、美咲ちゃんもその間一歩も部屋を出ようとしなかった。



.
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ