サン誕小説

□はじまり
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大きくなったら結婚しようね!

そんな約束もいつしか思い出へと変わり、記憶から消え、人はみんな大人になる

一生一緒と約束し絡ませ合った小指を忘れて、同窓会で3年ぶりだなあなんて笑い合う大人になるんだ


お嫁さんにしてくれるって、と当時付き合っていた彼とのラブラブぶりを自慢していた女の子も今ではもちろん彼ではない相手と結婚し、一児の母となっていた

あの時の彼の話を振られ、そんなこともあったねと苦笑い

それがきっと、大人になるということ

良いも悪いも過去を忘れて、笑い合えるようになる


幼稚園や小学校のおままごと同然の結婚云々なんて、いつまでも本気にしている方が驚きなのであって、忘れてしまっている方が普通なのであって…



(だから断じて!俺が悪いわけではないのであって!!)









 




『かんぱーい!』

『うぃ』


夜の7時、小中、高校までも一緒であったウソップと二人俺ん家でビールの入ったジョッキをぶつけ合う

小さい頃から気が合いなんとなーく一緒にいた俺達は高校卒業後の学校は別々なものの駅への距離や家賃などの条件が好都合だったこのアパートでお隣りさん同士の一人暮らしを始めたのだ

夜学校から帰るとどちらかの家で飯を食ったりそのまま寝てしまったり、休みが合えば買い物や合コンも行ったし何だかんだと10年以上共にいる悪友だ

そしてそんな俺達もついこの間無事それぞれの学校を卒業しこの春ついに社会人になる


『もうそろそろ会社の研修始まんだろ?頑張れよサラリーマン』

『おうっ、お前もいよいよ料理人だなぁ…じぃさんがやってる店だっけ?その年でたいしたもんだ』

『あぁ、小学校のころから出入りして手伝いさせてもらったりして…一応10年くらい立つからなー』

『学校卒業と同時に副料理長なんてすげえじゃねーか』

『ま、ジジィのおかげなんだけどな』


いやいや、お前の頑張りが認められたんだよって言ってくれるウソップが素直に嬉しくてサンキュってもう一度ジョッキを鳴らし合った


『まだしばらくはゆっくりしてられんの?』

『おー、でも明日店に新しく入るバイトの子に挨拶に行かなきゃだ』

可愛いレディーならいいなあ、何故かあの店ムサい野郎ばっかだからなあ…


『まあさ、家も隣同士だしこれからも変わらず、仲良くしてくれな』


『おう、これからもクソよろしくおねがいします』


へらっと笑い合って俺の作ったクソうめえ料理をたらふく食ってそのままカーペットの上で二人とも眠ってしまった

これからの輝かしい未来に胸を弾ませながら…









 


次の日、すやすやと眠るウソップは今日一日フリーだと言っていたのでもう少し寝かせてやろうと家においたまま店へと出た

今日の俺の用は新しいバイト生への挨拶と簡単な仕事の説明

スタッフのほとんどが俺がガキんころからいた連中だ

今度入るのは高校生だって言ってたから年の近い俺が世話係になったわけだが

可愛い女の子なら手取り足取り教えてあげるんだけどなーでゅふふふふ

そこから始まる恋愛、素敵じゃないですかっ!

副料理長って…優しいんですね…なんて頬を赤らめ俺を見上げるレディーを思い浮かべると口角が自然と上がり出す

仕事や学校がうまくいかない時に俺の特製デザートを出して…彼女の笑顔を一人占め!

高校卒業と同時に呼び出されて…私、もう子供じゃありませんってキスをねだられて…はうっ!!

たまらずぎゅうと自らの体を抱きしめる

職場でそんな出会いがあったっていいじゃねーか!

女の子希望!ジジィこのやろうレディーじゃなかったら絶交だからな


うきうきわくわく、軽い足取りで店までの道を急ぐ

俺の頭はレディーでいっぱい!


だからそれをどんな理由があろうとも野郎に邪魔されたとなるといい思いはしないもので…


『おいアンタ、バラティエってレストランに行きたいんだが…知ってるか?』


『あん?』


振り返ったそこにいたのは緑の髪のなんともまあいい体付きの野郎

おりゃあまだ見ぬレディーに会うために急いでんだ!と言ってやりたいところだがバラティエとはまさに俺が今度副料理長を任されているレストラン

客人であろうこの人を邪険に扱うのもいかがなものかため息をついた

『俺も今から行きますから、よかったら一緒にどーぞ』


 

…と、俺がせっかく、この俺がせっかく野郎に親切にしてやったというのに目の前の緑は目を見開いたままそこから動かない

人の話聞いてんのか置いてくぞクソ野郎と言ってやりたかったがなんとか飲み込んで、どしたんすかと声をかけてやる

まだ見ぬレディーのための貴重な時間を割いてっ、俺を凝視したまま固まってしまった緑にこんなにも優しくしてやってるのに奴ぁ俺の問いにすら答えない(カッチーン!!)

もういいか、ここまでしてやったのに勝手に石化したこいつが悪ぃ

客だろーがなんだろーが知るか

来たきゃ自力で来やがれってんだ

好きにしろいと緑野郎に背を向けて、店へ向かおうと歩き出した…その瞬間



『見つけた…』


『あん?』


やーっと口を開いたと思ったらその言葉は理解不能

不能ならば気にせずさっさと行ってしまえばよかったんだ

奴がしゃべったことに俺は足を止め振り返った、振り返ってしまった

『どわっ!?』

振り向いた目と鼻の先には緑マン、近い!と距離をとろうとした瞬間ものすごい勢いで抱きしめられ…


『ふむうっ!!?』

あろうことか奴ぁ俺にぶちゅーっと!俺様の唇にぶちゅちゅーっと!

『むー!!むぐうー!!』

おもいっきり服を引っ張って、おもいっきり背中をバシバシやっても緑マンは離れない

てここ外!道!人通るから!!

というか何事だこれは!!


俺がパニックになってる間に口内に何か入ってきて

(ぎゃーべろ!!これべろぎゃー!!)


ちゅくちゅくと口ん中で暴れ回る奴を力の限り首を振って拒絶する

やっとの思いで突き放した俺の目は苦しさやわけ分かんなさでじわーって涙出てきてて慌てて拭った

何しやがんだど変態野郎!と蹴りの2〜3百発入れてやりたいところだったがそれより先に変態緑マンが声を張り上げる


『ようやく見つけたっ、約束だ!俺の嫁になれ!』



俺、サンジ、それは俺が社会人としての第一歩を踏み出す輝かしい未来の始まりになるはずの、暖かい春の出来事…



end




 
 

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