CRAZY DROP

□喜んで、壊れよう
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お前のためなら命も惜しくない

それで少しでも、罪滅ぼしになるのなら…




『ウソップ、ウソップ〜』

軽い声が聞こえて振り返る

『エース、どうした』

いつもと変わらない笑顔を貼付けて俺の元へとやって来た彼はその笑みと結び付かない言葉を吐いた


『ボス暴走中、止めにって』


『早く言えよ、脳天気』


『うはは!頭のネジとんじまってるから仕方ねぇ』


愉快愉快と笑い飛ばすエース

冗談ではないときたもんだから笑えねぇ


ここにいる連中は皆ネジの足りない奴ばかり…

そういう俺も、他人事ではないのだが…


あいつの頭ん中から無理矢理ネジをひっこ抜いた俺だって、十分すぎるキチガイ

そのくせ苦痛に涙を流すあいつを見て自分のしたことへの罪悪感と恐怖に逃げ出したのだから余計にタチが悪い




一番上の大きな部屋

一応入るぜと声はかけたが言葉が返ってこないことだって分かっていたので返事を待たずに入っていく

見事に散らかりきった部屋

身体からもっこりと綿が浮き出てしまっているクマちゃん

ワインの瓶はひっくり返り書類は部屋中にばらまかれていた


そんな中辺りを見回すと、クッションにまるで自らを隠すように埋まっている彼を見つける

その目は瞳孔が開ききっており口は震えた息を吐き出しながらカチカチと音をたてていた


彼の傍まで歩みより、目線を合わせる

手には力強くナイフが握られており、身に纏っていた白いワンピースは所々赤く染まっていた

『…ころす…』

小さく…弱々しく呟いた

どんどんと瞳には涙が溜まり、そのままボロリ ボロリと零れていく

いつもの不気味な笑みとは違う、心底怯えた幼い顔



 

きっと今の彼が、本当の『サンジ』

いつもの『サンジ』が、壊れてしまっているのだ

たくさんの死体を前にして…怖くて当たり前なのだ、気が狂いそうな程泣き叫んで当然なのだ

今のサンジが…『本来のサンジ』『だったのだ』

それをこの手が、無理矢理壊した

嫌がるこいつの言葉を聞き入れず

己のためだけに、狂気じみた笑顔を与えた

彼をこんなにも弱く脆い化け物にしてしまった


後悔していない、と言えば…大嘘になってしまうか…


だが俺は、またこの手でサンジを壊すのだろう

そうするしか…俺には方法が分からない






目の前で泣きじゃくるサンジ


『ころす…っ!何でっ!…っ何で俺…こんなっ…身体っ…!』


『…サンジ、…ごめんな』


もう二度と、正気になど戻らなければいい


『ひいぃっ!!嫌!いやあああっ!!』

そうしたらもう…苦しまずにすむんだ

お前を忘れはしないから

お前が忘れても…俺がちゃんとこの罪を覚えているから


ナイフを片手で掴み、もう片方の手には用意していた注射器

それを見た途端に青ざめ泣き叫ぶ彼が暴れだす前にその白い首に針を突き刺した

その瞬間飛び出すんじゃないかと思うくらい瞳が見開かれ喉が潰れたような声を上げたが、それからしばらく…カクンと力が抜け、動かなくなってしまった

ゆっくり、彼の手からナイフを引き抜く

刃を握った俺の手からも血が溢れていたがそんなことはどうでもいい

彼の足から溢れていた血はもう固まっていた

せっかくのワンピースもそれが染み付いてしまっていて台なしだ(それすら美しいなんて…本当にどうかしてる)


強く強く抱きしめた

サンジの意識が戻るまで…全てのものから守るように

胸が痛む、この罪悪感は一生消えない冒した罪





 



『…ウソップ』

小一時間程抱きしめていただろうか

ようやく目を覚ました彼は俺を見つめ、小さく口を開いた


『…気分はどうだ…』

『…怖い夢を、見たんだ』


呟き、ぎゅうっと俺の服にしがみつく

俺はそんなサンジを抱きしめた…抱きしめることしかできなかった


『部屋…また俺、暴れたんだな…ウソップ、おかしくなった俺に、意地悪言われた?』

『…いや、なにも…』


『そう?だったらどうして…そんな泣きそうな顔してんだ…?』


『…はは、』

嗚呼、

ああまたサンジが…壊れてしまった


だんだんとサンジの顔が見えなくなる

俺なんかが涙を流すことなど…許されるわけがないというのに

『ごめん…ごめんな、サンジ』

その瞳は今だ綺麗に輝きつづける

狂ってしまっても時折見せる笑顔は昔のままで

あの繰り返される絶望を苦痛を、お前は忘れたわけではないだろう?

なのに何故、お前は俺に微笑みかける

俺はお前になら…いつだって殺される覚悟はできているのに



『謝らないで…』


『ごめ…っ…ごめん…っな』


『謝らないで、ウソップ』


いつの間にか怯えたようにしがみつくのではなく、赤子をあやす揺り篭のように…

その小さな身体が俺を包んだ



『ウソップは何も悪くない…忘れていいんだ…昔のことも、その罪悪感も…ウソップの気にすることじゃない』

それはまるで催眠術のように、じーんじーんと、文字になり音になり俺の脳を揺らしていく


『もう忘れよう?カヤさんのことも…忘れていいんだ…だあいじょうぶ、おれがいるから、おれがうそっぷをあいしてあげるから』


少しだけ、昔の友人の顔が浮かんだ気がした

しっかりとは思い出せない…

悲しい思いをさせてしまった女性の顔が…





 

『あいしてるようそっぷ』


にやあと笑う綺麗な顔

俺が壊した、美しい彼


『おれのかわいいおにんぎょう、ぜったいにはなしてやるもんか』


そっと頬を小さな手が覆って、親指で涙を拭ってくれた

そのまま近付いてきた彼の顔

逆らわず、目を閉じると唇が重なった


『かわいい、かわいいうそっぷ、おまえをこわしていいのは、おれだけだよ』


くひひひひ、と甲高い声を上げるサンジに…やはり忘れることはできない罪悪感

そしてそんなお前の笑顔が美しいなんて

この歪んだキスが幸せだなんて

お前に、壊されることを望んでいるなんて


やっぱり俺の頭のネジはとんじまってる



『仰せのままに、ボス』





(この狂った世界でしか、生きられないあなたのために)



end




 
 

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