CRAZY DROP

□C
1ページ/1ページ



クスクスクスクス


目の前のお人形が笑った


金色の髪を揺らして


青い目を細めて


黒いドレスを身に纏って


白い肌を露出させて



とびきり美しいフランス人形を抱きしめて、お人形は笑っていた




『はじめまして、ナミさん』


ゆっくりとソファーから立ち上がり、こちらに歩いて来る


その足はあまりにも細く、怪我をしているのかよろよろと時間をかけて、ゆっくりゆっくり進んでいる


何度もバランスを崩しそうになってふらふらと立ち止まって…

その度にキシリ…キシリと足が音を立てていた


その様子を逃げることもできずに見入っているとひたり、お人形は私の前までやって来た


ハイヒールを履いている私よりも少し低い


何も読み取れない青い瞳がじっと私を見上げる




(怖い)




死を覚悟していたはずの私を支配するのはその三文字


震える身体をぴくりとも動かすことができなかった




『…んふふ』


ぎゅうっと握りしめられたフランス人形


その青白い顔色は持ち主と同じもの


にこりと笑ったその顔は不気味な程に美しかった




 

『ふは!エースの言う通り!すっごく綺麗な人!』


きゃはははは、雰囲気に似つかわしくない笑い声


笑い声に似つかわしくない雰囲気



『可愛くて綺麗で、頭もいいんでしょ!?ナミさんは最高のれでぃーだ!普通はね、難しいんだよ…誰にも気付かれないように人を殺すの』


『……っ』




息が、できない


声がでない


言葉が分からない


頭が、真っ白になる




『エースがね、見てたんだ…あなたがあの人を殺すとこずぅっと、話してもらったけど、素晴らしかったよ…あの殺人計画は、誰が考えたのかな?』


『……っ』



声に、ならない…っ


モヤシのような…私ですら普通に戦っても勝てそうなこの子相手に、全てを支配されてしまっているようだ



『ナミさんが一人で考えたの?お友達と一緒に考えたの?それとも、どこかの組織の入れ知恵かな?それはどこ?』



淡々と、追い詰めてくる


きゅっと可愛らしく上げられた口角は今すぐ殺せと睨みつけても助けてほしいと命乞いしてもきっと1ミリも動かない


その瞳はきっと、一瞬も揺らがない




 

『ナミさんは何者なのかな?どこかの組織の人?殺し屋さんなの?』


トン、と…心臓の上に手を当てられる


まるで握られているかのようだ


『だあいじょうぶ、可愛いれでぃーに酷いことはしないから…ねえ、こたえて』



震える口を、ゆっくりと開く


その様子をじっと見つめる青い瞳




『私が…一人、で…』


『一人で?本当に?』


『…えぇ、殺し屋なんかじゃ…ないわ…』



必死に声を絞り出した


体が震える…



だが意外にも目の前のお人形はそっかと笑顔を見せ私から離れて行く


ぽてん。ぽてん。


一歩一歩、ゆっくりゆっくり歩いて、またソファーの上へ


その後側にある受話器を手に取り耳に当てた


ちらりとこちらに顔を向けて『失礼』なんてまた笑顔




『もしもぉし、ゾロ?どーお?』


フランス人形の髪を優しく撫でながら、お人形は受話器の向こうにいる者に話しかける


 


『うん…うん、やっぱりねぇ…たしぎちゃん、可愛くて素敵なれでぃーなのに…悲しいなぁ』

悲しい、そうお人形は呟いた



その表情に、思わず涙が零れた


恐怖に対しての涙


それ以外の何でもない


震えが止まらないのなんて当たり前


失禁したっておかしくない




今にも人を殺してしまいそうな瞳


ちらりと赤い舌が覗く口は頬まで引き裂かれていた


その表情を見た途端、恐怖以外の全ての物が停止する

否、破壊されたという方が正しいかもしれない



ぎいぃっ

ぎいいいぃっ


細い腕に浮かび上がる青い筋



軋む音?それとも悲鳴?



ぎいいいぃっ


ぎいいいぃっ



ぎいいいいいいいいっ!!



かくん。




大切に抱きしめられていたフランス人形の首が…床に張り付く

胴体と離れ離れになった頭は、それでも綺麗に整った顔を崩さず見開かれた目はこちらを見ている


耐え切れず…私の足は崩れ落ちた


そんな私をきょとんと見つめ、また笑う


『OK…それだけ分かれば十分…ね、急で悪いんだけど…今すぐ戻ってきて…うん、お願いね』


ちゅっと受話器にキスをして、『ごめんね』なんて私に話しかけてくる


分かった…


このお人形の正体が…



『どうしたの?怖がらないで…なぁんにもしないからさ…ナミさんの返答次第では…ね?』



分かった


この可愛らしく微笑むお人形の正体が



『あ…まだ、自己紹介してなかったね』



間違いない、間違いない



この綺麗なお人形こそ


この恐ろしい男こそが



『CRAZY DROPの総司令官、一応…ボスってやつ?ふひっ…やってます…サンジともーします』

彼は笑った、楽しそうに



『以後、オミシリオキヲ…』



彼は笑った



頭を無くしたそれを大切そうに大切そうに抱きしめながら



end


 

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ