CRAZY DROP

□B
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連れて来られたのは意外にも街中にあるビルの中


もっと人里離れた山の中、なんて勝手なイメージがあったのだけれど…


だが立派なビルにも関わらず踏み込んだその中はガランとしていて誰もいない


まるで廃墟のような、二つ分の足音が響くだけの暗い建物


この状態が当たり前なのか私の前を歩く男は軽い鼻歌なんて歌っていた



広いエレベーター

男に続いて乗り込んだ

男は迷わず最上階のボタンを押して

どんどんと天へと近付いていく


(結局行き着く所は、地の底だというのに…)






『…CRAZY DROP…だってさ』


ポツリ、呟いた男に目を向ける

男はどんどんと遠くなる地上を見つめていて、その表情は何だか物悲しい


 

『誰が言ったのか分からないけどさ、狂い落ちた奴って感じで付けられたらしいよ?酷い言われようだよね?』


語りかけるかのように、けれど一人譫言のように呟いた


『でもね、ボス笑ってた…響きが可愛いってさ…あながちクレイジーってのも間違ってないかもね』


『私からすれば、あなたも十分気が狂ってるわ』



もちろん私も…人のことなど、言えないのだけれど…



『くくっ、いいねぇ…気の強い女は嫌いじゃねぇよ…』


鋭く細められた目


『まぁ、好きでもないけどねぇ…』


今日だけで何度も見た吊り上がる口元


私を閉じ込める箱が、ゆっくりと動きを止める


『さぁ、ここでお別れ』


開かれた扉


目の前にはもっと大きな扉が待ち構えている



『あぁそういやぁ、あんたの名前聞いてなかったなぁ…よければ』


『…ナミ』



『さようならナミさん、あんたとはまた会いたいなぁ』



 


ヒラヒラと揺れる手


ゆっくりと扉は閉まり、その姿は見えなくなった


しんと静まり返る空間


部屋の中には明かりが漏れていて…


きっとこの中にボスがいるのね

扉に向かって足を進める





恐怖は、ない


死を選ばされたって構わない

その方がずっといい


今の私には何もないもの

空っぽのまま生きていたくなんてないわ




キイィ…

ドアを開ける

今、私の足は裁きの場へ



あの男に大切な人を殺されて

私は今日、あの男を殺した


結局私もあの男と何も変わらない

気狂いの化け物に殺されるのがお似合いよ



 


部屋に入り、後ろ手に扉が閉まったのを感じる


思わず立ち止まったのは、目の前に広がる景色が想像とあまりにも掛け離れていたから



ふわふわなクッションの床


クマやウサギのぬいぐるみ


そこら中に散らばる童話の絵本

大きなレースのベッド



まるで、幼い子供の部屋のようだ


本当にここに、残酷な殺人鬼がいるのだろうか





『いらっしゃいれでぃー』



小さくか細い声

聞いた瞬間に身体が凍った


目の前の大きなソファー


ぬいぐるみに囲まれ、整った顔をした可愛らしい人形がこちらを見つめ、話しかけてくる


先程の男とは比べものにならないくらい…不気味な笑み





『はじめまして、ナミさん』




END


 

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