りくえすと文
□ずっと隣にいたいから
1ページ/5ページ
ボロボロの身体
自らが焦げた臭いがツンと鼻につく
嗚呼、なんて弱い
人間離れした化けものを前に、自分はあまりにも無力で
愛しい彼の無事を縋るかのように祈ることしかできない自分に唇を噛み締めた
空島から落ちたのは運悪く海軍の領域
針ネズミと言われているらしいこの要塞に迷い込んだが不幸中の幸いといったところか、俺とルフィはナバロンのコックとして身を隠すことに成功した
早くナミさんやロビンちゃんの無事を確認したいところだが何せここは敵の巣の中
一人の勝手な行動が仲間全員を危険に曝すことになる
ここはまだ動かず、もっと情報を集めるのが利口だろう
そんなことを考えながら台所から少し離れた場所でルフィと二人下拵え担当の俺は黙々と目の前に山ほど積まれた玉葱を切り刻んでいく
ここのコックたちに気に入ってもらえたのはよかったが、気さくに話し掛けてくる奴らの笑顔を見るとやはり罪悪感を感じてしまう
『おほー、さすがだなサンジ!』
『…あのなぁ、ルフィ…』
特に手伝うわけでもなく、作業を続ける俺の隣で目を輝かせながら話し掛けてくるルフィに思わずため息が零れた
毎度毎度
どうしてこの船長には危機感がないのだろうか
『みんなバラバラになっちまってるっていうのに…脳天気にも程があんだろーが…』
『だぁいじょうぶだよ、あいつらは』
『…そりゃそうだろうけどよ』
今俺達の周りにいるのは俺達を捕まえようとしてる海軍だと言うのに、んでそうやって笑ってられんだよ…
みんな平気な顔をしていたがまだ空島での傷はしっかりと癒えていないはずだ
チョッパーもウソップも…
あの戦闘バカの剣士でさえ、重傷を負った
目の前で素っ頓狂な顔をしてるこいつだって…平気なはずがないのに…
動かす度にズキズキと痛む身体
痛みと共にやってくる怒り
俺にもっと力がありゃぁ…みんな傷付かなくてすんだ
ナミさんだって怖い思いをせずにすんだ
ボロボロになりながらもエネルに立ち向かったこいつを支えてやりたかったのに…
俺はいつも、守られてばっかりだ…
(…っ…くそっ)
持っていた包丁に力が入る
指を切ってしまいそうになり、あまりの情けなさと腹立たしさに目頭が熱くなるのを感じた
『なーなーサンジ!サンジ!!』
『…なんだよっ!』
完全な八つ当たりだが、本当に空気を読むということに疎い船長に文句の一つでも言ってやろうと睨みつける
こいつを本気で失いたくないと望むくせに何一つ守れない自分の非力さが合わさってどんどん惨めになっていく気がした