超短編

□怖い夢
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どうしょう…

荻がヤギの味方になった。

何でだよ?

頭がおかしくなったのか?


圭と優太は捕まってしまった。
二人とも俺を守ろうとして。

圭は『因幡さん!』と。
優太は『先生!』と同時に叫んだ。

『僕らはいいから逃げて』

そう言われて
ためらいながらも逃げてきた。

ほつれたスボンと
傷だらけの体。

もう疲れた。
これ以上走れない。
体が酸素を求める。

ごめんな優太、圭。


前を見ると道はなかった。
冷たい壁が俺の進む道を塞ぐ。
行き止まりだ。

それでよかった。
どちらにしろ追い付かれて終わる。


足音が俺に近寄る。

俺の腕をぐいっと掴み引っ張った。

抵抗する気力もない。

俺は後ろに倒れそうになり敵の腕に支えられた。
その時バチッと目が会った。

「…荻、っ…何で…俺…何かし…たの?
謝るから…こんなの荻じゃないよ…」

涙がこぼれる。
どうして?
理由が聞きたい。

荻の冷たい視線がジリジリと俺を痛めつける。

「洋は悪くない。
だが今は相棒でも仲間でも何でもない。それに最初からヤギの味方だった」

胸が苦しい。張り裂けそうになる。

「…荻のバカ」

「バカはどっちだ」

ふわりとあいた手で俺の頭を撫でる荻。

今までと変わらない優しくて大きな手。

一瞬、やっぱり荻は俺達の味方だ。
そう感じた。
だけどそれは錯覚でしかなかった。

俺の喉元に銃が押し付けられる。

俺は震える手で荻の髪に触れた。

「圭と優太は助けてあげて…」

返事をするように俺の額にキスを落とすと荻は力強く引き金を引いた。





『…し…』

何か聞こえる。
何だ?荻か?

「洋」

勢いよく跳ね起きた。
夢だったんだ…。

傍には心配そうに俺をみる荻がいた。

「大丈夫か?うなされてたぞ」

「…うん」

俺は荻の髪をくしゃくしゃに撫でた。

「やめろ。崩れる」

俺はお構いなしに撫で続けた。

「なぁ荻」

「…なんだ?」

「ヤギすき…?」

荻の動きがピタリと止まる。

「嫌いだ。ヤギの夢でも見たのか?」

「ああ。荻がヤギ愛好者になってた」

「恐ろしい夢だな」

俺は荻をギュッと抱きしめながら言った。
「荻のばか。怖かったんだから」

「夢に出て悪かったな。安心しろ。ヤギは心から嫌いだ」

「俺も大嫌い」

大丈夫。荻は荻のままだ。これからもずっと。


END

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