めいん

□俺じゃなくても俺だから
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「なかなかいい器だ」
荻野邦治。通称鉄人。



俺の台詞にハッと目を見開く。

「…嘘だよ。お前の方が100倍いい」

今度は頬を赤く染める。

全く。可愛いやつだ。

「だけど俺はこっちのほうがいいな。
弥太郎と喋れるの嬉しいから」

「聡明さん…」

俺、男も口説けるんじゃないか?
なんてちょっと思いながら弥太郎の頭を撫でる。
勿論、俺の本気の口説き文句が聞けるのは世界中で弥太郎だけなんだが。

ボンと音がしそうなくらい真っ赤になった弥太郎の顔が俺を見上げる。

「そんな可愛い顔、俺以外に見せちゃダメだぞ」

「っ、…はい」

「えらい偉い。いい子だな弥太郎は」

更に髪をくしゃくしゃに撫でれば
とろけそうな甘い目を俺にむけて柔らかい笑みを作る。

それはそれは言い表せないくらい可愛くて。
父親が我が子の純粋すぎる笑顔を見て愛おしく思う。
そんな感じか?
多分。


そっと顔を近付けて弥太郎にキスをしようとした。

その時
微かに弥太郎の目が躊躇するような、戸惑うような暗い色に変化した。

俺はあと少しで唇が触れるという所で動きを止めた。

「…嫌か?」

弥太郎はそれは違うと必死に首を振る。

「嫌なんかじゃ…でも」

「?」

「…っ、何でもな、いです」


弥太郎が俺から目をそらしたとき、気付いた。

「器だな。見た目が俺じゃないからだろ?」

「でも…見た目は違っても…聡明さんであることには変わりないから、だから…大丈夫です」


「本当に?」
「はい」

「…じゃあ、目、閉じて」

弥太郎の目が静かに閉じる。

そっと指に髪を絡ませて抱きしめるようにキスをする。


「弥太郎、好き」

「…っ、好き…です」


本当に可愛いくて愛おしくて。

俺は弥太郎を器に選んだことで弥太郎を俺の傍に繋ぎ止めている。

もし弥太郎に俺の傍にいる理由が無くなれば、何処かへ行ってしまうのだろうか。

「聡明さん…痛いです」

「あ…悪い」

俺は気づかぬうちに弥太郎の髪にまわした指に力を入れていた。

慌てて髪から手を離し、悪かったと頭を撫でた。
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