地 サクリアの喪失

□地 別れ
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「・・・よく、来てくれましたねぇ・・・。」
「・・・・当たり前だろ?約束だったじゃねぇ―か。」
そういって、ゼフェルは、ずっと持っていたオルゴールを出した。
「ほら、修理したんだ。大変だったんだからな。」
そういって、オルゴールの箱を開けると、曲が流れだす。泉の水音と溶け合って、響く。
「あぁ・・・ありがとう。」
ルヴァは、にっこりと微笑んだ。深い皺を涙が伝い、耳を抜け、髪を濡らし、ターバンに滲む。
「なぁ・・・ルヴァ・・・。」
「・・・はい?」
「あんたは・・・守護聖で・・・よかったと思うか?」
ゼフェルが、ずっと抱いていた疑問。
「・・・そうですねぇ・・・。」
ルヴァは、そういって空を見上げた。
「よかった・・・と思います。守護聖として、私たちの陛下にお仕えできましたし・・・。何より・・・・。」
ルヴァは、言葉を切り、ゼフェルに視線を戻した。
「たくさんのことを知りました。みんなに会えました。わたしは・・・守護聖で幸せでしたよ。」
そういって、ルヴァは笑った。本当に穏やかに。
「ゼフェル・・・あなたは?」
そして、返す。
「・・・俺も、ルヴァに会えてよかったと思う・・・。でも、こんなにつれぇーんだったら・・・俺・・・・。」
(会わない方が・・・良かったんじゃないか?)
ゼフェルは、苦しそうに顔をゆがませた。熱い涙があふれ、流れる。
「・・・そんなこと言わないでください。」
ルヴァは、細い指でゼフェルの涙を拭った。
「また、会えますよ。」
そして、そんなことをさらりという。聖地を去る時と同じように、簡単に言う。全く、なんでこう鈍感なんだろう。なんでこんなに、のほほんと言えるのだろう。でも、ルヴァは、すべてを信じさせてしまう。そんなに優しく微笑まれたら・・・信じるしかなくなってしまうじゃないか。
「・・・会える・・・んだな?絶対・・・。」
「えぇ。」
「わかった・・・・。約束だかんな。」
「えぇ。」
信じること・・・・それは、心を強くする。どんなに儚い想いでも、揺るがない信じる心が奇跡を起こす。
「じゃぁ・・・さよなら、っていわねぇ。でも、言っときたいことがあるんだ。」
ルヴァは、しだいに返答する力もなくなってきた。その代わりに、穏やかな目で話を促す。ルヴァの体を抱く手に力がこもる。温もりを、存在を・・・少しでも手に。涙に崩れた笑顔で。
「ルヴァ・・・ありがとう。」
いままで、ずっと反発してたのに、いつも温かく自分を見守ってくれた。信じてくれた。愛してくれた。そばにいてくれた。その言葉に、ごめんも、感謝も、大好きも、全てを込めて。
「ありが・・・とう・・・。」
ルヴァは、最期の力を振り絞ってゼフェルを抱きしめ、本当に穏やかに微笑んだ。ターバンが風になびき、滑り落ちた。静かに目を閉じて、一筋の涙がルヴァの頬を流れる。
「ルヴァッ・・・ッ・・・・ぅ・・・・・クッ・・・ウウウ・・・・。」
軽いルヴァの体を抱きしめ、頬を自分の頬につけ、泣いた。嗚咽が、湖の水音が、オルゴールの音が、溶けて混ざり合って溢れだす。再会を信じて、ルヴァが無事、転生することを願って。

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