私とかみさま

□第八話 溢れた虚偽の情報
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闇に妖しく蠢く木々が生い茂る森の中で、私と花村さんは合流した。私は約一日かけて、皐に関する情報収集を行い、花村さんは、夜から少し調査をしていたのだ。

「名前さん。朝方ぶりですね」

花村さんは、続さんが月宮さんと日向さんに取って来いと命令した昔からある方の神の遺産、を狙って来た敵について。といっても私は朝から出かけていたから、その事は花村さんからの電話で知ったのだが。そう、神の遺産というのは二種類存在している。昔から存在する神の遺産と、聖戦で新たに出現する神の遺産との二種類。後者の方が続さんにとっては重要だそうだ。

「はい。昼は花村さんの御飯が恋しくて仕方なかったです」

「成果はどうでしたか?」

「あまり芳しくはありませんね。眉唾物ばかりです。前に花村さんが調べてもあまり真実性の高い情報が出て来なかったので、あまり期待はしていませんでしたけど……」

情報操作は完璧、といったところなんだろうか。本当に、数が多いだけで真実味のある情報はほとんど何も出て来なかった。

「一番有力……と言っても他の情報と比べるとまだマシだというレベルですが、皐がここ何年かで手に入れたという、聖戦には関係性のない神の遺産の情報でして」

私はポケットからびっしりと書かれたメモを取り出し、報告しようと口を開いた。

一つ目は、記憶を操作するという神の遺産。しかし使った者は記憶がなくなるとかなんとか。

二つ目は、自身の能力を飛躍的に向上させることが出来るという神の遺産。その際新たな能力に目覚めることもあるらしい。

最後は、精神操作能力。対象の心を自身の意図通り動かすことが出来るというもの。

……この三つ目の遺産の存在を知った時は、『そこの純血が、君に術をかけて良いように使ってるんじゃないの?』という日向さんの台詞を思い出し、もしやこの遺産が私に使われてるんじゃ……! とも考えたけれど、よく考えると何故わざわざこんなただの人間に神の遺産を使う必要があるというのか。使用者が皐にしろ別の誰かにしろ……続さんにしろ私に使う意味はあるまい。もっと強く、使える者に使用するに違いない。以上の理由でその考えは却下した。……自分で考えていて悲しいが。

どれもこれも実はガラクタ疑惑が浮上しているもの。使用回数に限度があるとか、代償が生じるとか、近代になって古いものは能力が劣化しているとかなんとか。これらには恐らく尾びれが付きまくっているのだろう。そもそも、皐が神の遺産を手に入れたという根底自体が怪しいものだ。皐側がこちらを撹乱しようと情報操作をしている可能性も否めない。それに加えて、この情報の他はもっと嘘臭いと来た。でもまあ、火のないところに煙は立たない。一応有り余すところ無く全て伝えておいた。伝えきると、肩で息をしなくてはならないほどの情報の多さだったが。

「なるほど……やはり皐は次期神候補という有名人だけあって、私が調査した時と変わらず情報が錯綜していますね」

花村さんは腕を組み、それから難しい顔で暫し黙っていたが、「では、私の方の調査結果ですが」と話を切り出した。

「今回動いていた敵の所属先は、概ね予想通り、軍事犯罪組織アルカナかと」

アルカナ。私もこの血みどろの世界で生きていくと決めてから、知識として知っておいたけれど、かなり大きな組織だった筈だ。敵に回すとなると大層面倒臭いことになりそうな。

「それとついでに。あの日向という混血、アルカナと繋がってる形跡がありますね」

「え。日向さん、聖戦関係者だったんですか……!?」

我ながら情けないが、全くその可能性は頭になかった。今回、命を救ったという恩を返すということで、月宮さんと日向さんに神の遺産を回収させているが、それはつまり敵の日向さんに神の遺産の入手を依頼してしまったわけで……日向さんがこちらの邪魔をして、神の遺産の入手は失敗しているんじゃ……「おい、何青い顔してんだよ。名前」

一体何時からそこに居たのか。続さんが憮然とした顔で立っていた。

「うわっ続さん!?」

「ちゃんと遺産は回収したから安心しろ。てか、俺様が指揮権取ってたのに失敗するわけねえだろ馬鹿」

ぺちん、と続さんに軽く叩かれて私の頭がそんな音を出した。す、すみませんとホッとしながら口にする。

「で、成果は?」

まずは花村さんが、先程私に伝えたことを反復した。

なんと続さんは既に日向さんが聖戦関係者ではないか、と疑っていたらしい。続さんが鋭いということもあるだろうが、私はこの世界に入って未だ一年ちょっと。まだそういう風に疑うことに慣れていないのだろうか……いや、そんなことは理由にならない。私も、この世界にいい加減適応しないと……。

「で、名前、お前は?」

「あ、私の方は……えっとですね」

慌ててメモを捲り、大きく息を吸った。

まず皐が手に入れたという神の遺産で、一番真実味があるうちの一つ目は、記憶を操作するという神の遺産ですが、使った者は記憶がなくなるとかなくならないとか。二つ目は、自身の能力を飛躍的に向上させることが出来るという神の遺産で、その際新たな能力に目覚めることもある、らしいです。最後は、対象の傀儡化。相手を自身の意図通り動かすことが出来るというものです。どれもこれも実はガラクタ疑惑が浮上しているものでして、使用回数に限度があるとか、代償が生じるとか、近代になって古いものは能力が劣化しているとかなんとか。後はあまり信憑性はありませんが念のため報告させていただくと、火を操る水を操る時空を操る時間を操る地を操る奇跡を起こせる『ザキ』が使えるようになる事故に遭わなくなる家内安全安産祈願

「もういい! ストップだ、ストップ! どんだけ情報多いんだよ! あとお前が用心深いのは分かるが、もうちょっと要領良く話せ!」

「っは、はあ……すみません、以後気を付けます……」

その辺りの木に手を着いて、精一杯酸素を取り込んだ。たしかに幾らか削ったとはいえ念のため念のためって慎重になりすぎたなあ……最後の方とかもはやお守りの効力みたいだし。

「だけど、それだけ多いってことは一つ位は本当のことがあるかもしれないな」

「たしかにそうかもしれませんね! これだけあるんですから」

「ああ。それに、デマが流れるっつっても普通こんなに流れねえ。明らかな情報操作だな」

「あ、なるほど……」

正直その辺りは詳しくないので良くは分からないが、実際に情報が溢れているからこれが有名人にとっては普通なのだと疑いもせず思い込んでしまっていた。そうだよね、たしかに、続さんの情報は花村さんの情報操作の甲斐あってそれほど流れていなかったし……。

「何か隠したい本当の情報が出回っている、だから多くのデマ情報を流し、どれが本当か分からなくする……ってとこじゃねぇの?」

「すごいです続さん!」

そう心から讃えると、にやりと続さんは笑って、さすが俺様!と腰に手を当て盛大に高笑いをする。が、即座にそれを花村さんの冷たい声が一刀両断した。

「で、本当の情報がどれなのかは当然分かっているんですよね」

「続さんならきっと分かっているに決まってますよ!」

ね? と期待して続さんを見ると、続さんは固まっていた。あ、あれ? 花村さんが更に追い討ちをかける。

「もしかして、あれほど偉そうにしていたのに分からないんですか?」

あ。続さんの顔に図星と大きく書かかれている……もしかしなくても分からないんだろう。
期待してあんなこと言って悪かったな……。じっと見ていると、っんな申し訳なさそうな目で俺を見るな! と言われてしまった。

「……本当の情報がどれなのか不明なので、全てに対策を練るよりも、他の情報は参考にするだけして、この他のものに比べれば少しは有力な三つに絞って対策を練る方が良いかと。只でさえこちらは人員が少ないんですから」



それから長く議論をしてみたが、良い対策も本当の情報も分からず仕舞いだった。まあとりあえずそういうものを相手が持っているかもしれないという認識は持っておきましょう。その認識があるのとないのとでは雲泥の差がありますから。という花村さんの締めの言葉でその議論はお開きとなった。






「花村さん、すっかり忘れていたんですが……」

「なんですか? 晩御飯なら、帰り次第用意してあげますよ」

「は、花村さん……! ありがとうございます!」

「食い意地張ってんなーお前」

「だ、だって……! 花村さんの料理って中毒性が高いというかなんというか」

「なんだそれ」

 

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