私とかみさま

□第六話 皐強襲
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「は?」

きょとん、と日向さんを伺うと月宮さんのような底意地の悪い笑みを浮かべ、囁く。

「君のその忠誠心は、本当に自然に生じたものなのかな?」

「なにが……なにが言いたいんですか」

日向さんが私にわざわざ触れたのは術をかけられているかを調べるため、だったんだろうか。いやそれより、彼が何が言いたいか、そんなことは察した。察したけれども、それは……。

「そこの純血が、君に術をかけて良いように使ってるんじゃないの?」

「そんなこと、あるはずありません!」

「どっっこまでもめんどくせー傲慢どもだな、マジでっ!!」

反射的に張り上げた、しかし若干語尾が弱くなってしまった声は、続さんの怒気を孕んだ声に重なった。驚いて続さんの方に顔を向ければ、彼はぶちぶちと自身を拘束している黒く細長いモノを乱暴に引きちぎっていた。うわあ。やっぱり解くことは容易かったんだ。

「やめた。もう説得なんてしてやんねー! 死ね! 今すぐ!この場で!! 俺が始末してやる!!!」

随分と物騒なことを叫び、今にも月宮さんに飛び掛かりそうな勢いだ。こんな拘束なんて容易く解けるのに解かなかった理由は説得するためだった様子。

「嫌ね。どんな拘束なら縛られててくれるのよ、あなた」

「神の力を使い終わるまで縛られとけっての。『重縛』『強化』!!」

続さんの頭上にも、あのグロテスクな目玉が現れ無数の黒い紐のようなものが続さんを捕らえようと絡み付いてゆく。それを刀で凪ぎ払いながら続さんは月宮さん達を止めようと猛る。

「誰が、使わせるかあ!!」

せめて私が動けたら手助けが出来るのに……! ぐぐ、と腕を上げようとしてもまるで上がる気配がない。

「お願い、この呪いを解いて。私たち二人を生き残らせて」

月宮さんの声にはっと顔を上げる。神の遺産が形状を失い、二つに別れて月宮さんと日向さんの呪いの烙印に吸い込まれる。そして今度は二つの烙印が宙に浮かび、軽い音を立てて……消えた。ああ、使われて、しまった……! 言いようのない口惜しさが込み上げたのも束の間、続さんが月宮さんの胸を刀で貫いた。

「死ねよ、混血」

死んだだろうな、と思ったにも関わらず、月宮さんは表情を変えず、なんと、刀を自ら引き抜いてしまった。

「な……!」

言葉にならない驚きが、私を襲う。おそらく続さんもそうだろう。

「痛いわね」

「……冗談だろ。心臓貫かれて何で死なないんだよ。化け物かお前!!」

腰に手を当てて文句を言う月宮さんを、再度斬りつける。それでもなお、彼女は平然と立っていた。

「……生き残らせてってお願いしたせいかしら。神の力が宿った直後の今は、殺せないみたいよ。やっと……混血の呪いから解放された。これでもう烙印に殺されることもない。嬉しくて、どうにかなりそう」

そりゃあ嬉しいだろう。じわじわと迫り来る死に怯えることがなくなったのだから。だけど、だけど! それは続さんにとって大切なものだったのに!

「――……っ。こんなにイラついたのは久しぶりだ。神の力はそんなくだらない呪いなんかに使っていい力じゃねーんだよ」

続さんは、強く刀を握り締め、憤怒の形相で刀を二人に向け叫んだ。

「戻せ! 今すぐにだ!!」



――その刹那。



ひらりと、黒い羽が続さんの目の前をどこからともなく落ちてきた。と思ったら、突然二人が倒れた。糸が切れたように、ばったりと。

「え……?」

ぽかんとして二人を見てから、続さんに視線を移す。続さんが何かしたんですか? そう問いかけようとして、止めた。続さんも私と似たような顔をしていたから。それから、悔しさと怒りをない交ぜにした表情に豹変した。

「神の遺産がなくなってやがる……。くそっ! 堕天使め……!」

堕天使……。
続さんと同じく、神の力を奪い取ることを定められている者――皐。続さんの言い方から察するに、どうやらこれは、皐の仕業らしい。拘束を続さんに解いてもらいながら、思考する。不意打ちとはいえ一瞬で月宮さん達を倒すなんて、やはり続さんと同じく神託を受けた者、普通じゃない。ふと、意識を失っている日向さんが視界に入り、思い出してしまった。

………。

「なんだ?」

私の意味深な視線に気付いた続さんに、訝しげに問いかけられた。

「いえ、なんでも」

咄嗟に笑みを作って立ち上がり、拘束を解いてくれたことに対する礼を述べた。続さんは月宮さん達の方に向き直り、どうしたもんかなーと声に出して月宮さん達の今後の処置を考えあぐねている。そんな続さんの背中をぼんやりと見続けた。


君のその忠誠心は、本当に自然に生じたものなのかな?


彼の言葉に、確証などない。嘘を吐いて、私で遊んでいるだけかもしれない。それに、続さんはそういうことをする人かもしれないけれど、それでも私のこの気持ちが全て紛い物なんて、そんなわけがない。信じたくない、というのも確かに本音だけれど、それでも……違う、紛い物なんかじゃない。そんな私の想いとは裏腹に、日向さんの言葉がまるで呪いのように私の頭の中でぐるぐると渦を巻いて、いつまでも消えてくれなかった……。
 

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