私とかみさま

□第五話 神の遺産を取り返せ!
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「なにかありましたか?名前さん」

通話の途中で私からの応答が途切れたので疑問に思ったのだろう。私は走りながら電話越しに頭を下げた。

「すみません、混血が結界を仕掛けてまして……でも続さんがいるので大丈夫です」

「そうですか……。そうそう、私がそちらへ合流するのは遅くなりそうです。邪魔が入るようなので」

邪魔? 訊く間もなく、それでは、失礼。と電話は途切れた。ツーツーと無機質な音を出し始めた携帯を閉まって数多の結界をばっさばっさとぶったぎっていく続さんに報告する。

「花村さんは邪魔が入ったので、合流は遅くなるそうです」

「そうか。よっ……と」

結界を切り、私達はついに砦型の結界まで辿り着いた。恐らく、これが最後の結界だろう。そして、この中には月宮さんと日向さんがいるはず……。

「行くぞ、名前。……混血どもめ、預言書ごとそこから引きずり出してやる」


「強引」


振り返ると、いつの間にか、月宮さんが木にもたれ掛かり、佇んでいた。手には剣が握られている。

「……なんだ、一人は勝手に出てきた」

「続さん、この人の相手は私が。貴方は早く中に」

「待ちなさいよ」

私の台詞を遮り、月宮さんは口元に薄い笑みを広げて近付いてくる。続さんに話があるのだ、と。対し、続さんは油断なく月宮さんに刃を向ける。話を聞く気なのかな、と察して一歩下がり、続さんの斜め後ろに身を置くことにした。

「時間稼ぎならお断りだな」

一体何を仕掛けてくるつもりなのか。私はいつでも呪符を取りだせるよう構えた。

「せっかちね、違うわよ。あなたとお友達になりたいって言ってるの」

「へえ。何の冗談だ?」

彼女は、呪いを解いた後の預言書をやるから、邪魔をするなと言うが、続さんは小指を自身の耳に突っ込み、あからさまに興味なさげだ。まあ、それはそうだろう。彼がそんなものを欲しがるわけがない。

「ねぇ。悪い話じゃないでしょう」

「……はん。低俗」

……何、と月宮さんが眉を吊り上げて言った直後、続さんが彼女に向けて刀を振るった。それを月宮さんは舌打ちをし、体を反らして避ける。

「俺の目的をお前らと一緒にすんな」

「あら、何が違うのかしら。叶えたい願いのために力を欲してるくせに」

月宮さんの指から流れ出る血が、意思を持って続さんを狙う……! 私は素早く構えていた呪符を放ち、血の連撃から見えない壁を作成し続さんを守る。続さんは攻撃の合間を潜り抜けて月宮さんの懐に潜り込んだ。眼を見開く月宮さんの喉を捉え、掴む。

「それが低俗だっていうんだよ。勘違いしてるようだから言っとく。俺はお前らみたいな、神の力に目がくらんだ奴らとは違う。俺は――……」

続さんの台詞は途切れる。背後の砦型の結界が光を放ったからだ。神の力のチャージが終わってしまった……!

続さんは月宮さんを離し、日向さんのところへ向かう。私は月宮さんをチラリと見てからその後を追った。

「混血どもが。好き勝手かき回しやがって、いい加減にしろよ! 『結界を解除しろ』!!」

悪態好きながら、これまた至極あっさりと砦型の結界を壊す。きっと最後の結界だけあって今までのものより強固な代物だろうに、結界は崩れ去り、建物が露になる。まあ仕方がない、相手が悪すぎる。だってこの人は。

窓を突き破り中に突入する続さんの直後に私もそこから侵入すると、日向さんが呪符を構えて攻撃をしようとしていた。構わず続さんは正面から突っ切ろうとする。日向さんが攻撃してくる前に、呪符を投げつけ、日向さんを拘束した。地面に縫い付けられ、解こうと身動きしている。日向さんが相手なのであまり長くは持たないだろうけど、続さんが遺産を手に入れられる時間はあるはずだ。続さんはなんなく日向さんの横をすり抜け、そして――神々しい輝きを放つ十字架の遺産を掴み取った。

「俺は神託を受けた者。次の神になるために、神の力を得ることを定められている者だ」

よし、取った! と一瞬ホッとし、続さんに駆け寄ろうとした時。日向さんが『発』と呪符を発動させる声が背後から聞こえた。途端、私と続さんの足下に、大きな目玉が出現し――そこから伸びてきた黒く細長いものが私と続さんを拘束した。押さえ付けようとする力に堪らず膝を着き、地面に這いつくばる形になる。腕が動かせないから、呪符も使えない。

……ちょっと待って。いくら日向さんといえど私の拘束を解くのは早すぎる――。

そう思い、首だけをなんとか回し日向さんを伺うと、傍らに月宮さんがいた。……おそらく、月宮さんが解くのを手伝ったんだろう。ならば拘束を解かれたのが早いのも頷ける。
月宮さんは血を使い続さんの元から神の遺産を奪い取った。

「今度の拘束は解けないだろ?あんたらと月宮がおしゃべりしてる間にオレが急ごしらえで作った、あんた用の拘束だよ」

まさか神様だとは思わなかったけど、と笑みを浮かべる。続さんは憎々しげに日向さんを睨み付けていた。私も似たような顔をしていることだろう。……続さんが未だ拘束を解かないのは、出来ないからやらないのか、出来るけど何か狙いがあってやらないのか。前者だった場合……なんて、考えたくもない。続さんに限ってそんなことはないと思うけれど。

「悔しい? なら良かった嬉しいわ。今からもっと悔しがらせてあげなくちゃね。あなたの目の前でこの神の力を使って」

「続さんに触るなッ!!」

黒い笑みを浮かべ、続さんに顔を近付ける月宮さんに、思わず感情に任せて吼えた。それに答えたのは月宮さんでも続さんでもなく日向さんで。

「……主人思いなことで。ああ、そうだ。さっきは拘束してくれてどーも」

彼はつかつかと私の眼前にやって来たかと思うと、しゃがんで視線を私に合わせた。

「なんですか」

「君さあ」

つつ、と私の顎、頬と移動する日向さんの指。……何がしたいんだろうこの人、嫌がらせ? と意識せずとも刺々しい口調になる。月宮さんと続さんもなにやら会話をしているようだ。「……発動して」月宮さんの声が聞こえた。彼女の手の中にある神の遺産が発動し、風が吹き込み、辺りが少し明るくなる。と、日向さんは耳元で囁いた。


「なんか術をかけられてるよ」


……え?
 

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