短編
□嵌められた!
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「お前、尚のこと好きだろ」
「は?」
突拍子もない発言に呆けた様な声が漏れた。テレビから眼を離し、続を凝視すると、得意気な続と眼があった。また何を言い出すんだろう、この人は。
「今考えるとなんか尚のことじーっと見てたもんな! 月宮に嫉妬してたんだろ」
ああ、さっきのことか。よくもまあつれない彼女にあれだけアタック出来るなあ、と半ば感心してただけなんだけどな。大体、私が好意を抱く相手は他でもない、続、あんただ。
「違うよ」
でも、こんなことを平気で私に言うということは、脈なしということなんだろうか。……凹むなあ。
「報われねえ恋してんなお前。あいつは月宮にゾッコンだから、他の奴にしとけって」
「……そうだね」
なんというか、ここまで私の気持ちに気付かないこいつに、いままでのことが積もりに積もってイライラしてきた。もういい、もうどうなったって知るか!
「じゃあ、次は続にするよ」
眼を見据え、思い切ってそう言ってやる。ここまですれば、さすがのこの鈍感野郎も気付くはずだ。それはいいんだけれども……自分からやっておいてなんだが、私もこれは相当恥ずかしかったりする。そもそも私の悪い癖発動で後先考えず行動してしまったが、この先続との関係がギクシャクしたらどうしよう。あ、いやその時は尚みたいに開き直ってアタックしまくればいいのかそうなのか。悶々と考えながら、蒸気してゆく顔を見られぬよう、早々に席を立ち逃げようとした。だが、続に手を引っ張られ、体制を崩して続の方に倒れ込んだ。私は続に受け止められ、その拍子に、……私の唇に続のそれを押し付けられる。すぐにそれは離れたが、何をされたのか頭が着いていかない。馬鹿みたいに口をぱくぱくさせるだけの私を見て、続はしてやったり! という様な笑みを浮かべた。
「……分かってんじゃねぇか」
嵌められた!
「は、顔真っ赤になってんぞ」
「……あんたもね」