レノイリ

□Fifth column
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 総務部調査課のオフィスは、いつにもまして静かだった。
 一人、黙々と書類を片しながらイリーナは小さく溜息をついた。長時間のデスクワークで疲れた目を抑え、背凭れに寄りかかる。時計の針は、午前7時を指している。イリーナはこうして時折、誰よりも早く出勤することがあった。次々と際限なく溜まっていく書類を少しでも多く処理し、上司の負担を減らそうと考えたからだ。

 他の先輩二人に比べ、任務を任せられることが少ないことにイリーナはひどく焦りを感じていた。
 また一つ溜息をつき、何気なく室内を見回す。端には上質な皮張りのソファーと、透明なテーブル。そして、上司三人とイリーナのデスクの他――今は持ち主のいない、少し埃の溜まってしまったデスクがいくつも目に入る。かつてタークスの一員だったイリーナの実の姉も、この内の一つを使用していた。

「姉さん……」
 どんなことも優秀にこなし、厳しくも優しかった自らの姉を思い起こす。今は行方どころか、生きているのかどうかすらわからない。
 まぶたに昇る熱を耐えるように、イリーナは目を伏せた。
 ――私とは、なにもかもが違っていた。実の姉妹とは思えないほどに。
「私、どうしていつもこうなのかな……」
 どうして姉さんのように上手くやれないのだろう?
 あなたの影が、いつまでたっても離れない――



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