第三部

□V-8 念願の叶う件
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リューは食事時以外、書庫に籠もりきり、資料を探して過ごす。
オオドリとカイはは広い広い館の手入れを手分けする。
ユプシロンは朝に城に上がり、夕には食事を共に取り、その間にあれこれと翌日の指示を出す。
オオドリを遠慮無くこきつかうといった宣言通りに。
「オオドリ・マーセナリィ。
薪の在庫、そろそろ補充してくれ。
なるべく、生木じゃなく自然に折れた木を探して乾燥させて作るんだぞ?
風の流れを作った部屋、前に教えただろう。あそこを利用しろ。
あと、どうしても足りなくて、切るときは森の端っこまで足を伸ばせ。
絶対、<広場>の近くの巨木には手を出すなよ!!」
「巨木…」
どのくらいからユプシロンにとっての巨木なのか。
オオドリのいまいち飲み込めてない空気に、ユプシロンは眉を寄せる。
「…心配だな。
カイ、切って許される木と絶対ダメな木、分かるか」
「え?分からないものなの?」
逆に、カイがきょとんとオオドリを見る。。
「………伐採は、あまりしなかったからな…」
小姓をしていた頃、軍の野営地を作るために、手当たり次第に切り倒すことはしたことがあるが。
選べといわれると、分からない。
「精霊がいるとはっきり謳われる森は、初めてだから、もし叶うなら、
間違わぬよう付き合ってほしい…」
「あーちゃんも!!」
「アールは魔術の調べ物があるだろ!」
勢いよく上がった手がしょんぼりと下げられる。
「う…。まぁ、ずっと机にかじりついても、効率が下がるからな。午前中だけなら…」
しぼんだ花がパッと開く。そんな笑顔に、一同は目を和ませた。



 そしてしばらく経った頃。
「オオドリ・マーセナリィ、これを片付けてくれ。
時間かかっても良いから、丁寧にな。そこらの魔術師が泣いて欲しがる希少本ばかりなんだ。
…破いたら ほっぽり出すぞ。そうしたら、今日はもう休んで良い」
 外の天気も分からないような書庫の中。
山と積んだ本に囲まれ、ユプシロンはオオドリに指示した。
ザニア城の王位継承式典に向けた準備と同時進行の作業のため、かなり疲れが溜っているように見受けられる。
リューも、基本的には黙々と作業しているのだが、小さな図書館なら十分に埋(う)められる本の量である。
「こういう時は蔵書の多さが恨めしくなるな」
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