第三部

□V-6.賢者にまみえる件
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 夜が明け、シェリアクの魔術で眠っていた者たちが目覚め、宿の惨状が明らかになった。
宿の主人はシェリアクを警邏けいらに渡すべきだと主張したが、
警邏に渡してどうなるものでもないと身をもって知っているため、損害費をまかなって、どうにか、
不測の事故として処理してもらった。
費用は、シェリアクが身につけていた魔力を帯びた宝石類を魔術師協会支部で換金して捻出した。
リューの意外な抜け目無さに、オオドリが舌を巻いたのは、彼の秘密である。


 *


「襲撃役と案内役が、同じひと…?」
<そうだ>
カイが、否定を求めて聞き返した言葉が、あっさりと肯定された。
理解しがたい矛盾した役割配置だが、本人は特に何も感じていないらしい。
また、城を襲ったのは「主が使うため」だが、国の混乱は目的ではないので、臣下に暗示をかけて政治を
行なわせているという。
理解しがたいから…そういう考え方と、実力行使に、彼が人間と行動の理屈が違う、魔族なのだと納得する。
見た目は、人間とあまり変わらないのに。多絃を奏でた指も、カイと同じ、五本だ。
「…あ、じゃぁ、宿屋で歌ってのは、待ち伏せ?とか、油断させるため?とか」
<ただの暇つぶしだ>
「……へー…そうなんだー…」
分からない。精霊も時々分かりにくいが、魔族も、もの凄く分からない。
それにしても、暇つぶしで、あんな歌を歌えるのか。
何だかもの凄く、ずるい気がする。
<器の素材が違えば、音も異なる>
「え?」
呟きにカイが聞き返したが、シェリアクはそれには応じないで黙々と進んだ。
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