第三部

□Ex.ζ 秋の夜の夢
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 かやぶき屋根の宿。
夜半、アシェスは呼ばれるように目が覚めた。
衝立ついたての向こうに、カイの気配が無いことに気付く。
旅を急いで、働く時間が減ったため…路銀節約の相部屋だ。
特別な営業を期待する客へ牽制けんせいも兼ねて、周囲の誤解を放置しているが。
窓下を覗くと白い人影が見えた。
追って庭に出る。琴に手を持つのはすでに習い性だろうか。
アーチをつたうツルバラが夜気に香る。
庭木は短く苅られ、見事な紋様を立体的に描いていた。
夏の短いこのあたりでは、花園を造り出すよりも、常緑樹の造形を主に庭を彩ることが多いのだ。
「…カイ?」
この歌姫を間違えるはずはない。それでも、ここに来て良かったか、確認も兼ねて。
月光の中、振り返る。カイのやわらかな巻き毛がふわりと風に流れた。
普段とは雰囲気が違って見えた。
丈の長い麻の単衣ひとえと、木綿のショールを羽織った乙女。
最近の衣装は大胆なことが多くて、…夜着の方が肌の露出が少ないとは何の矛盾だろう。
アシェスを見ても、沈黙したまま、口を開かない。
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