第三部

□V-3.娘二人の戯れる件
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あまりのショックに口にすることもできない。
そんなリューに気付かず、オオドリはかつてのことを思い出す。
城で行われた夜会では、婦人のそれぞれが似合う香りをまとっていたが、料理や本物の花、男達の体臭とも雑ざって、よく鼻がきかなくなった。
カイはそんなにオオドリに接近することはないが、リューは手を伸ばすだけで触れる距離をうろついていることが多い。
発生源としては近すぎる気がする。
「少しだけなら良いが、ずっと傍にいると、ちょっと辛い気がするな」
リューが泣きそうな顔をしているのにようやく気づき、言葉を足した。
「何をそんな顔をしている?むろん、作りたいなら作るといい。
だが、リューの日向と風の匂いもよく似合ってると思うがな」
「それ、無臭ってこと…?」
「いや、………」
違いをうまく説明できなくて、大きな体を丸めて悩む。その真剣な様子に、
「…えへへ、まあいいや。
日向と風かぁ…」
ようやく笑って、こぼれかけた涙を押さえる。
オオドリは何故急にリューの機嫌がなおったのか分からず困惑する。
「香り袋も、まだいいや」

日向はオオドリの好きなもの。
風はリューの好きなもの。

リューは少しだけ、自分ではあまり分からない、自分の匂いを好きになった。
オオドリの腕をぎゅっと捕まえて、カイ達のいる案内板へと進む。
アシェスがそれに気付いて手を振った。

「あ、…!」

通行人が、転んで派手に荷物をばらまいた。
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