第ニ部

□U-4.遅れた祝い
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 黄金に染まる森の道。
旅を続ける吟遊詩人達が、今日も仲良しのケンカをわいわいとしていた。

「ちょ…っカイ、誕生日だったなら言ってくださいよ!」
「だって、あたしもアーシェの誕生日知らないし」
確かに言っていない。アシェスは複雑な顔で答えた。
「………まだまだ先です」
「夏?」
歌姫は首を傾げ、金色の髪がふわりと揺れる。
「春の…4/2です」
「大地の人だね」
「?!」
カイの断定に明らかに動揺する。
「そういう占いもあるの。どうかした?」
「いえ…幼なじみが昔、私のことをアースと呼んだものですから」
「あー…『アース』もありかー…。でも『アーシェ』の方がアシェスぽくない?」
にかっと笑うカイ。
「それは、誉め言葉として考えて良いんですよね?」
「うん、もちろん。
ふんわか笑顔が老若男女の心を捕らえて放さない魅惑の琴弾きー」
「…………」
呼び込み向上のようで素直に喜べない。
「…カイは、先ほどの占いだと何となるのですか?」
質問に、カイは思い出そうと空をあおぐ。
「慧けい…『めぐみ』…形はないけど、空のように全てを包み込むような存在だって」
「…言いえて妙ですね」
「そ?」
照れたように微笑むカイに、アシェスは野の花を手渡した。
「生まれてきてくれてありがとう。
カイに、たくさんの愛と喜びがありますように」
輝くばかりの笑顔。偽りのない心地よい声。
「………だから、言いたくなかったのかも……」
「は?」
何だか物凄く照れる。
「アシェスの時にも恥ずかしいくらい祝ってやるわよ!?」
「…はぁ…」
そんな宣戦布告のように言われても。
だが、その意思のあるところに至り、自然と笑みがこぼれる。
「楽しみにしてます」

まだまだ先のその春まで、それを越えても ずっと共にあることを。




<終わり>



第三部 episodionへ続く

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