第ニ部

□Ex.χうたうたいの羽根
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「……それ、家出って言わない?」
「言うかもね」
「…ダメだってぇ!おばさん心配するよ。帰ろう?」
「帰って 叱られて、またあの人に見下みくだされたら、傷ついたあたしは、どう直せば良いの?」
「言うこと聞かないキーが悪いんじゃないの?」
「女に生まれたのは、あたしが悪いの?
男の子は出来る事、あたしがやりたがるのは何でダメなの?
あたしが悪いの?
本当に、あたしが叱られることなの?」
「そんなの、分かんないよ。ねえ帰ろう?」
「分かってよ。帰りたくない。
あんたも女に生まれて母さんの子に生まれてくれば、あたしの気持ち分かるかもよ」
制限の全てが「女の子だから」に収束される理不尽さ。
大切だからだ、と言われても、閉塞感へいそくかんが少女を襲う。
「だって僕、男に生まれたもん」
「アステリオンではそれだけで強みになるから…!」
「男だって結構大変なんだよ?
妹はしなくてもいいマキ割りとか家のシュウゼンとか手伝わされたり」
少年は、目の前の少女よりも非力なのに。
「どうしてそれを変だと思わないの?」
「だって、そんなもんだよ?」
考え方の違う少年に、少女は首を横に振る。
「あたしは、あたしのしたい事をしたい。
女だから、男だからって、したい事が出来なくなるのは嫌。
女だから、大人しく家にいろ、なんて嫌」
「キー、変」
「ふつう なんて、ないじゃない」
「とにかく 帰ろうよ」
問答に飽きたのか、ぐいっと手を引っ張って力任せに道を引き返そうとする。
「嫌だってば!」
振り払おうとし、勢い余って拳こぶしが顔に当たる。
「…っ。さらわれても知らないから!」
少年は踵きびすを返し、出口の方へ一人、駆けていった。
「ここから ヒモ結んだって、帰れるもん」
泣く気もないのに泣けて、少女は目をこすった。
かたわらの木にヒモを結ぶ。
背筋を伸ばし、まだ入ったことのない森の奥へと歩みを進める。
途中、空腹に負けそうになりながら。





「うわぁ!すごい、別の場所みたい!」
 突然視界が開けて、少女は感嘆した。木々に遮られることなく空が見える。「あれ?」
 何やら、ヒラヒラと光るものが見える気がした。
それは、青だったり、緑だったり、赤だったり、次々と色が変わっていく。
目がおかしくなったのかな、と目をこするが、やはり同じようなものが見える。
何なのだろう、と首を傾げた。その瞬間、光るものが体を擦り抜ける。
「うああぁあぁぁぁ?!」
情けない声をあげて狼狽ろうばいする。
それまで誰もいなかったのに、少女は、たくさんの者に囲まれていた。
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