第ニ部

□Ex.χうたうたいの羽根
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 北の大地に深い広大な森がある。
カーラというその森は、近くの街や村へ恵み深く贈り物をしたが、
同時に神秘の森でもあった。
磁石を用いて、在るはずの最深部へ向かっても不思議と道をそれ、
向こう側の村に出てしまったり、元の道に戻ってしまい、
たどり着ける者が少ない。
そうした不思議や、ある伝説から、その森には精霊が棲まう、と、
見えずとも人々は信じた。
ある古都では多大な恵みに預かりながらも、彼らを畏れた。
その名の元になった青年が、精霊に心を奪われて、生涯人間である妻を、
正当な心の座へ上げなかったという伝説のため。
そして、まれに「精霊を見た」と呟いた者、とりわけ子供には、
目に見えぬ何かに囚われる奇怪さが増えるため。
どんなにその地の魔術師たちがそれは恩寵だと言葉を費やしても、
人々は今、ここで生きるためには異質だと拒否した。
そして、そんな異質が増えないように、子供達に言い聞かせた。

 あの森はお化けが出る。子供は行ってはいけない。
 さらわれてしまうから、子供は行ってはいけない。
と。

 そうした森の入り口で、二人の子供が言い争っていた。
「ねえ、キー、帰ろうよ。子供だけで奥に行っちゃいけないって言われてるよ。迷っちゃうよ」
引き留める少年に、少女が怒ったようにヒモを見せる。
「だから、ヒモを持ってきてるでしょ?先っちょを入口の木に結び付けて、迷ってもいいように」
「あ、ごめん。邪魔だったから切っちゃった」
「………」
心ない仕打ちに少女は絶句する。少年は言葉を継いだ。
「でもここまでなら道分かるよ。帰ろ、お昼近いし」
「…怖いの?」
「怖いよ。もしさらわれてママに会えなくなったらヤだもん」
今度は少年が怒ったように口をとがらせた。 
おばけが子供をさらう森。
だからみんな少しなら冒険で入るけど、奥の奥までは入りたがらない。
「わかった。あたしだけで行くから帰れば?

ただしこのヒモ、ちゃんと入口のトコにつないできてよね」
「……キー、おばさんとケンカしたの?」
「言わないで」
つーんとそっぽを向く。すねたそんな表情さえ、どこか愛らしさが漂う。
「…したんだね。今度は何?」
「…年頃なんだからもっと女の子らしくなさいって。
遊び回っちゃダメって…言うから、こんな家出てってやるって」
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