第ニ部

□U-1.鳥の歌
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ぽわっと部屋が明るくなり、人影が現れた。
「グラフィアス!」
喜びに目を見開き、抱きつくように手を広げる。
だが、実際には腕は人影をすり抜けた。
そのことに、歌姫は驚きはせず、ただ少しだけ寂しそうに微笑んだ。
現れた青年は、一目で人外と知れる容貌ようぼうをしていた。
深い緑の瞳、地に届きそうなほど長く淡い緑の髪、にじむように光を放つ姿。
<森>の精霊なのだ。
ただ、彼の<森>はこの近くにはない。
<中継>…精霊達特有の瞬間的な伝達能力を駆使くしして、歌姫の前にその姿と声…光と音を再構築して見せているに過ぎない。
触れることはできない。
遠く離れている今は。
「…<森>に何かあったの?グラフィ」
もしや、と心配そうに首を傾げるカイに、首を振る。
「カイが、もの凄くご機嫌だと聞こえてきたので、様子伺いです」
くすり、と笑う精霊に、歌姫は白い肌を真っ赤に染めた。
「だ、だって、凄い美人さんで凄く琴も上手で、ほんわかさんな感じだったのよ?
『取り分寄こせ』どころか、集計してる間にいなくなっちゃったし…」
会えたら、何度でも頼んでみたいくらい。
「カイの<お気に入り>に入ったわけですね」
「……そうだねっ」
ふふっと軽く笑う。
カイの<お気に入り>は多い。
歌を披露しながらの旅で出会った、景色、花、動物、老若男女のお客さん、町並み、飲み食いした食べ物、名産品、空の色、海の色、風の匂い。
たくさんのものを抱きしめて、彼女の歌は深みを増していく。
「……私よりも?」
微笑みながら、ぽそりと確認した精霊に、カイは破顔はがんした。
「グラフィと比べられるわけないじゃん!
グラフィはグラフィー、さっきの人はさっきの人!」
「……そうですか?」
答が足りさそうに、呟く。
「…………あえて言うなら…?」
あまりにもカテゴリが違いすぎる気がするのに、とカイはしばし考えた。
精霊と人間。
…だが一応「男」というカテゴリではくくれるのかしら?
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