第ニ部

□U-1.鳥の歌
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 昼間の公園に、綺麗な歌声が響いていた。
その源は、まだ年若い歌姫。
太陽を紡いだような金の髪、中天の空のような爽やかな青い瞳。
白く長い手足を惜しげもなく披露し、それでも媚びる様子はなく。
ただ歌うことを心から楽しんでいるように見えた。
その健康的な姿は、眺めているだけでも人の心を満たした。そして美しい歌声は歓喜を、ときに哀惜あいせきをもたらした。

 太陽が姿を隠しても、まだ観客は引かず、あるいは入れ替わり、時々リクエストに応じながら、喉を鳴らし続ける。
 夜に紛まぎれそうになった歌姫の周りを、淡い光が尾を引きながら周囲を不規則に飛び交い始める。
その演出を、ある者は、夜光虫の一種だと推測した。
ある者は手品だと。

だが、少しだけ休憩をして水を含む歌姫に、
「好かれているんですね」
不思議な碧あおの瞳をした青年が、告げた。
美しい顔立ち以上に、人好きのする魅力的な笑顔で。
そして、持っていた琴で、投じられたリクエストに伴奏をつけ始める。
暗譜あんぷで、広く知られている楽譜通りではない歌姫のクセにも合わせて。
青年の加わった後に訪れた観客が、十分な打ち合わせをしたものと思うほど、夜の空気に美しく、歌声と琴音は響き渡った。



 仕事を終え、その日の宿に入った歌姫は、青年との歌を思い出してにんまりと顔をゆるめた。
当の青年は、歌姫がチップを分けようと勘定かんじょうしているうちにどこかへ行ってしまったが。
「気持ちよかった〜っ」
噛みしめるように呟く。
余韻に浸りすぎて、ベッドに広げた荷物がまだ片付いていない。
いけないいけない、と我に返っても、またすぐに顔がにやついた。
「…ご機嫌ですね、カイ」
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