第一部

□T-5 大いに笑う件
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「リュー…」
秋の道。なかば諦めたオオドリの声。
「なに?オオドリ君」
「………なぜ、マントにくるまる。寒いのか?」
「は?」
「この前から気になっていたんだが、手持ち無沙汰なときとか、くるまってあそんでいないか?
ヒトのマントで」
 しばらく、オオドリのマントを絡めとっている自分の手をじっと見つめた後、リューは弾けたように笑い出した。
前触れのない哄笑に、オオドリは不服そうに覆面を押し上げた。
「何を笑う」
「だって、だって、だって〜〜〜〜」
声にならない大笑いをおさめられずに、べしべしとオオドリをはたく。
オオドリが不服を言おうとすると、ようやく笑いをおさめた。
「だって、初めて会ったときから結構やってるのに」
涙目になりながら事実を告げる。
「…………なに?」
ぼうぜんと、尋ね返す。
「結構、やってたヨ?本当に」
オオドリのマントを我が物顔に扱う。
「…特に覚えがないのに妙にしわになっていたり、油汚れがついていたのは……」
「え!油汚れなんてあった?!」
慌てて問い返すことでその仕業を肯定する。

マントに触ってついてくることが、言われてみれば何となく多かったような気もするが…………。

オオドリは力が萎えたようにその場にかがみこんだ。
珍しく目線の下にいるオオドリに、リューはくすくすと笑う。
「でも、気付くようになって良かったね」
「何がだ」
ふくれたように言う。
いじけて、態度が常より若い。
「気付かなかったってことは、感覚が少し鈍くなってたってことでしょう?
でも、少し回復したんだね」
「…そんなに鈍かったか?私は」
「敵意や悪意以外では」
にっこりと微笑む。
「たとえば?」
「まんと」
『内緒』と言おうかと思ったが、それはあんまりか、と変更したのだが、オオドリにとってはこの具体例の方が『あんまり』だった。
ともに行動してやく二ヶ月。
それに気付いたのは数日前。
オオドリは気を鎮めようと額を押さえた。
「でも、あーちゃんやめないけど」
そんなにショックだった?と首を傾げる。オオドリと目線を合わせるためにしゃがみこんで。
「………ヒトのマントにくるまっている図は間抜けだ」
オオドリの意見に、しばし思案するが
「あーちゃん気にしないV」
満面の笑顔で返した。
オオドリは ぐっ とリューの双肩を両手でつかむと、大きく溜息をついた。
立ち上がり、先へと道を進む。
リューは数秒それを眺めた後、走り寄り、背後から素早くオオドリの腕をとった。
「なかなか効果あり」
クセのある笑みを浮かべる。
「…何か意味があったのか?」
横目で見るオオドリ。
「単なる衝動」
その答えにオオドリは再び肩を落とす。
「でもね、『オオドリ君』なの」
「何だ、それは」
「名前。――たくさんの力が隠(こも)ってるの」
「魔術か?」
「そうだとも、そうじゃないとも言えるの」
楽しそうに笑う。紅玉(ルビー)の瞳に澄んだ空を映す。
「何だと言うんだ?リュー」
オオドリが尋ねたが、リューは笑い、答えない。ただ、オオドリの腕をきゅうっと強く、抱きしめた。



存在(ヒト)が<力>を売る基本。

その名と 存在(かれ)を
    呼ばう存在(もの)






<終>




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