第一部

□T-4 世界を語る件
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「当然だろう。それとも、近頃出始めている『携帯用冷蔵庫』とか言う、バカでかいものを引きずって歩くか?」
立ち寄った雑貨屋の店員が旅人に喧伝していた。
「それもいいね。もちろん引くのはオオドリ君」
にっこりと笑う。
数日ぶりの笑顔に、思わずオオドリは動きが止まる。
「オオドリ君、手」
クルッと指先を回し、オオドリの手に触れる。
ひやり、とした感触に息をのむ。
氷だ。
「空気中の水分を結晶させたの」
リュー自身もひょい、と口に入れる。そしてオオドリの腕に抱きつき
「まだ、暑いよね」
マントの中に冷風を送り込む。
涼しい。
「………」
オオドリは目を丸くしてリューを見た。
「ごめんね?やっと覚えたの」
以前、人狼の森でボロボロになったマントに何かを呟くと、新品のようになった。
「怪我を治すのも、多分できるようになったよ?前は、成功したし」
憐れな人狼を被験体に。
「…最近、元気が無かったのは…」
「大勢の送還の疲れちゃってたのと、新しい魔術を覚えるのに、この辺がこう、うわぁぁんって、いっぱいになってた?」
手振りで頭の中のぐちゃぐちゃ感を伝えつつ、にっこりと笑う。
「………。そうか」
違うだろう、と、どこかが呟くが、その笑顔に誤魔化される。
「前の怪我は、大丈夫?どこか痛かったら言ってね?」
静寂が、遠のく。その勢いに急激に押され、げんなりとする。
(もう少し、静かなままでも良かったかも知れない…)
無い時に望み、ある時には望まない。
まことに勝手なものである。





「…もし、突然失礼致します。あなたは、魔術師でいらっしゃいますか?」
 村に到着して、食事処に入ってしばらく。初老の、品の良い男がリューに声をかけてきた。
「ご用件は何でしょうか?必要であれば『証』を提示致します」
慣れた様子で応え、首を傾げる。
客に接するときの受付や店員の見せるような笑顔で。
それが意外で、オオドリは食事の手を止めた。
「ああ、これは失礼を。
私はこの村の村長を務めるアダラ。
偶然立ち寄った方にお頼みするのも心苦しいのですが、他に術すべを知らないため、ご寛恕かんじょください」
同じ年頃の孫がいてもおかしくないのに、そこまでリューにへりくだるのは、元々の性分か、それほど切羽詰まっているのか。
「お引き受けするかどうかはお話によりますが」
胸元から鎖を引き出し、『証』を見せる。
宝石の底には太陽の紋章が浮き出て、台の金属には彼女の名前が刻まれている。
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