第一部

□T-4 世界を語る件
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「見つかるかどうか分からないものを探しに行くの?」
 問いかけに、少女は一瞬泣きそうになった。
「行くよ。探すよ。
『必要なものなら自然と手に入る』なんて、夢見てられない。
ううん、手に入るんだとしても、『自然』が『ただ待つだけ』なんてこと、そうそうないよ。
だから、探すんだ、ちゃんと。
あたしは見つけ出したいんだから」
強い意思を宿した瞳。
その眼が幾度となく絶望に曇り、これからも、そうした時期を迎えることを、彼の瞳は視ている。
けれど笑う。
「別に新星ホープを引き留めようって訳じゃないんだから、そんなにムキにならなくてもいいよ」
少女の中の罪悪感が、本来 別の者への言い訳を彼に向ける。
男…魔術師協会の長たる彼は笑った。
「…本当、あーちゃんって可愛いよね」
畏敬でも恋愛感情でもなく、ただただ、会員への信愛をこめて。



(…ある意味、変な人だったなぁ…)
ぼんやりと燠火おきびを眺め、夢の余韻に浸る。
足跡の確認はあえてしていないが、おそらく、彼と会える日は二度とないだろう。

蝋燭とマッチ
松明と枯れ枝
かまどと焚き火

同じ炎を宿すものでも、その力と寿命は異なる。
明らかに。

「……」
 瞳に、先に起きていたオオドリの背中をとらえる。
再び火を熾おこそうと、慣れた手つきで枝を削って加えたり、かき混ぜたりしていた。

ながらえる何かというのは、意識・無意識に、
ああした行いを受けているのだ。

久しく会っていない従兄いとこを思い出す。

協会の長へ向けた言葉は、本当は、彼に向けたものなのだ。



 オオドリを瞳に閉じこめるように、ゆっくりと目を伏せてから、リューは起き上がり、思い切り伸びをした。
夢の残滓ざんしと思索を振り払うように。





 てくてくと、踏み固められた道を行く、白と赤。
オオドリのマントをつかみながら、リューがうつむいて歩く様は、まるで叱られた子どものようで、すれ違う人々はリューに同情を、オオドリに大人げないな、という表情を寄せた。

 夏は終わりを迎えようとしていた。
日差しはやわらかく、道の脇には気の早い秋草が顔を出す。
二人の歩く道の先には、オオドリと同種の呪いが解けた者がいるという村がある。
そこを目指す、ということには何のブレもない。
ただ、女神の召喚と送還以来、リューの口数が極端に落ちていた。
オオドリは元々口数が多くない上に、リューの過去を探りそうで、輪をかけて無口になっていた。

不意に、マントから腕に重みが移る。
「のど、渇いたよ」
空になった水筒を逆さに振りながら。
オオドリが水筒を差し出すと一口含んで
「ぬる」
渋い顔と声で評した。
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