第一部

□T-3 ケンカ腰に話す件
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「好きでさらわれたんじゃないもんー」
ぷぅと頬を膨らませる。
ふと、オオドリの腕の中で目覚めたときのことを思い出してしない、
赤面する。
「・・・・。リュー。照れるくらいなら初めから、子供じみたことはするな」
(・・・違うんだけど・・・)
オオドリの勘違いに、リューは苦笑した。



「おっはよう!オオドリ君!」
久しぶりに入浴できて上機嫌なリューが、元気にオオドリの服の裾をつかむ。
「おはよう、リュー」
さらっと頭を撫で、食堂の席に移動する。
「呪いが解けた者がいる村までの道なんだが」
「まだ遠い?」
「いや、大分近くなった。
だが、この村からだと、人狼が棲み着いたという山を越えるのが近道らしい」
地図帳を開いてみせる。
「ほかには、みち、ないの?」
一瞬で、笑顔が消える。いや、表情自体が。
笑おうとした残滓ざんしだけが、面おもてをいろどる。
初めて見る表情に、オオドリは驚いた。
「そんなに、嫌だったのか?」
オオドリの問いにうつむき、しばらく沈黙する。
やがて勢いよく顔を上げると、にっこりと底の知れない笑顔で説明を始めた。
「人狼ってね、女神が御使いとして使うことが多いの」
「・・・・ほう」
何故この話になるのか分からなかったが、関連がないでもないので、
とりあえず相づちを打つ。
「彼らは基本、とても忠実。
女神もそれなりに賢い彼らを信頼しながら使役する。
でも中には、小賢しい者、よこしまな者もいる。
人狼はそういう行為が好きな者が多い。
その対象に女神を選んだとき、罰は下る。
神の世界を追放されて、こちらに落とされる。
それでも、女神に焦がれ、女神の代わりに人間の女を襲う。
そうした人狼の基準は、顔が良いとか、ナイスバディとかじゃなくて、
どれだけ女神に近い気配をまとっているか。
・・・でね、自慢じゃないけど、あーちゃんの気って、すごーく神様に近くて。
そういう人狼にとっては絶好の獲物に見えたりするわけね。
・・・分かる?オオドリ君」
ハードな話に若干固まっていたオオドリが、呼びかけに、我を取り戻す。
が、改めて視界に入ったリューに、先日の洞窟での半裸の状態が重なり、
ガンッとテーブルを拳で打った。
「お、オオドリ君?」
今度は逆にリューが驚く。
「出るぞ、リュー。山は、迂回しよう」
「え?いいの?遠回りなんでしょう?」
「・・・また、リューを連れて行かれてはかなわん」
掴まれた腕に一瞬驚くが、華のような笑顔を見せる。
オオドリは何故そんな笑顔を見せるのか、と困惑しながらも
「荷物はまとめてあるか?」
確認する。
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