第一部

□T-3 ケンカ腰に話す件
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「あんたら、こんな村に何か用かい?」
宿屋のおやじが、メニューを差し出しながらリューとオオドリに尋ねた。
「村?案内板には『町』とあったが・・・」
「あ〜、そりゃ昔の話さ。途中で人狼に出くわさんかったかい?
半年くらい前に大勢棲み着いてさぁ」
大仰に肩をすくめ、溜息をつく。
「森で、大半は、退治したと思うが・・・」
「あ?おや、強いね、旦那。
けど、森のは昔からいた、出入りするときの障害さ。
人里まではそうそう来ねぇ。
半年前に来た奴らが山にいるんだけどよ、
もっと頭が働いて、図々しいのさ。
村の中に入ってきて、盗んだり、女をさらったりさ。
人を食ったって話は聞かねぇが、娘や奥さんを大事に思うヤツらが
どんどん村を逃げてった。
・・・いくら強いにしても、そんなめんこい子を連れてるんだから、
明日早く出てった方が身のためだべさ」
長々とした方便混じりの話に、自分で納得し、うんうんと首を縦に揺らす。
「おじさん、あーちゃんは山菜ピラフ。あ、スープも欲しいかも」
おやじの話を流し、リューが注文する。
「オオドリ君は?」
沈黙。
「同じので」
答えないオオドリに代わりに注文しておく。
「どうかした?オオドリ君」
おやじが下がった後、テーブルに肘をつき、尋ねる。
「たいへんな状況にあるな、と。
・・・何も、思わないのか?」
ああ、とリューが納得したようにうなずいた。
「オオドリ君はこの村の人のために、山の人狼も退治してあげようと思ったんだね。
えらいねー」
明らかに心のこもっていない言葉に
「リューは何とも思わないのか?」
意外に思い、問いを重ねる。
「だって、今疲れてるし、あーちゃん人狼好きくない」
こてん、とテーブルに突っ伏す。
「それに、今のおじさん、村に来るから迷惑で、村に来ない分にはーって
感じだったでしょ?
あーちゃん、そういう人のためにお節介やくきになれないもん」
「・・・どういう人にならお節介をやくと言うんだ?」
「オオドリ君」
即答。
互いに、伺うように、見る。
オオドリが肩を落とした。
「答えたくないなら、始めそう言え」
「ちゃんと答えたもーん」
べ、と小さく舌を出す。疲れのためか、また突っ伏し、ごろごろと
腕で顔をこする。
「オオドリ君がどうしてもしたいって言うなら手伝うけどー」
「手伝う前に、さらわれないように」
ふと、オオドリが釘を刺す。
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