第一部

□Ex.η 神の末子の望み
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泣き続ける彼女に触れると、氷で身を覆い、僕から逃げた。
もう僕には触れたくもない、と。

 頬を、伝う滴が凍り、夢から醒めた。
醒めても、何もできない現実。
薄明るい、亜空間。
彼女が作った、僕の牢獄。
現で氷に閉ざされたのは、僕。



冷たい、氷の獄。
それでも彼女が僕のために作った空間せかい
外に繋がる扉を解き放つのは彼女だけ。
彼女と繋がる扉。
それが、わずかに、開いた。
<世界>を垣間見る。
彼女が、暗い洞窟で、堕ちた<使い>に襲われていた。
風の召喚に<力>を乗せ、心だけ、彼女の元に馳せる。
意識がなくとも、彼女は自分の身を守る。
周りの精霊も、<使い>よりも彼女に従う。
彼女の望みを叶える。

精霊に導かれ、現れた、彼女の騎士。
その腕に、迷いなく飛び込む。
かつて、僕に、そうしていたように。


扉の開いた理由を悟る。


 清めを行う彼女の水鏡に、姿を映した。
そこに現れたのは、畏れ。
歳月が過ぎても、変わらずに。
忘れることもなく。
孤独に追いやった者を。



彼女の両親は土へ帰った。
一人、従兄だけが彼女を支えようと魔術で同じ時を生きながらえる。
半神たる、花嫁と同じ時を。
婚約を望んだ僕の言葉は、否応なく履行され、彼女を縛った。
古き神と婚約者の残した、神々の法に基づいて。
彼女の時は一日の輪で、繰り返される。
僕を受け入れるまで。

それが、彼女にとって福音ではなく呪いとなったことは、分かっている。


彼女の同行者を思い出して、顔を歪める。

彼も、呪いといえば呪いだ。

それでも、彼女は笑いかける。
姿は違っても彼は人間だから。
いや、人間でなくとも、妖精にも、魔物にも、微笑みは向かう。
害を為さねば。

笑ってもらえなくなったのは、神々ぼくらだけ。



 正体を知って、彼女は逃げた。
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