第一部

□T-2 人狼に襲われる件
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それは、リューの露わになった肌を彼女のローブで覆うと姿を消した。


「…ふふっ」
ゆらり、とリューが立ち上がる。
その焦点は定まらず、口元にも締まりがない。
ぶつぶつと小さく呟くと洞窟の中に水、雷、炎など、壮絶な光景が生じた。
轟音がとどろく。
リューはあやし手に笑いかける赤児なように、無邪気に笑った。
「「……大虎(よっぱらい)!」」
策に溺れた人狼は、引きつった笑顔でそう称(よ)んだ。
愚かな人狼たちはわたわたと慌てふためき、とりあえず住処を出ようと出口に殺到する。
そこに。
異様な殺気を放つ影が居た。
案内があれど夜道に苦戦したらしく、衣服のあちこちが裂けたり穴が空いている。
「貴様ら、獣ごときが人に手を出すな…っ!」
爆発しそうな気勢で凄む。

前門のグリフィン、後門の魔術師。

かくして、この森の人狼は一夜にして殲滅された。



 不思議なことに、死体は水のように溶け、活動していたときに放っていた獣臭さも消えた。
「おーおーろりひゅーん…」
リューはふらふらと千鳥足でオオドリに歩み寄り、ポフッと抱きつく。
そしてそのまま寝息をたてた。
抱きかかえようとして、リューがローブしか羽織っていないことに気がつきギョッとした。
「リュー」
呼びかけるが、安心しきって目覚めない。
辺りに散らばっている服を着せるのは憚られるが、風邪を悪化されても困る。
「………」
悩んだ末、オオドリはリューをマントでくるみ、軽く抱えて眠りについた。


翌朝。
先に目が覚めたのはリューだった。
昨日寝た場所と景色が違うことに驚く。
自分を包む温かいものがオオドリだと気づいて二度驚く。
自分がローブしか羽織ってないと知って飛び起きた。
オオドリが身じろぎしたが、起きはしない。
リューは顔を真っ赤にして、そぉっとオオドリの腕から出た。
よく見ると、オオドリはあちこちボロボロになっている。
「…<回復>、覚えておけば良かった…」
少し泣きそうな顔になる。
けれど。…ということは…。
「夢じゃなかったんだっ!うえっ」
不快そうに人狼に舐められた部分をこする。
衣服を回収し、洞窟の外で水場を探す。
 夏とはいえ、湧き水は冷たく、鳥肌が立った。
身支度を調え、ふと水面を見ると、自分ではなく男が映った。
まだ若い、少年とも言える姿。
透き通るような肌に、やわらかな金の髪。影が、微笑む。柔らかく、昔の記憶そのままに。
リューは身震いした。
洞窟に駆け戻り、勢いよく
「オ オ ド リ 君Vv」
のしかかって、起こす。
「リュー?!」
困惑したオオドリの声に、動揺も不安もねじ伏せて。
「おはよー!今日も良い朝だ。
呪いを解くためガンバロー!」
無意味なポーズをとってオオドリをいたく呆れさせたのだった。




2件目終了


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