第一部

□T-2 人狼に襲われる件
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 その瞬間、何かがのしかかり、火の明かりも消えた。
鳥目のオオドリは真暗闇の世界になる。
したたたたっ…と複数の軽快な足音。消しようのない獣の匂い。
月が、その姿を照らし出す。

人狼?!

人狼の噂を思い出し、オオドリは咆吼とともに、のしかかる獣を振り払う。
リューのいた場所を探ると、ぬくもりだけで、彼女はいない。
後を追おうとするオオドリに、再び人狼が襲いかかる。
その牙と爪が触れる前に、オオドリ長剣で彼ら全てを薙ぎ払った。
リューの連れ去られた方向を探ろうと目を凝らすが、見えるのは闇ばかり。
人間の見る闇よりもなお光のない世界。
「忌々しい体め……っ」
心底憎そうに呟く。
あてずっぽうに歩を進めても、樹に体当たりしたり根につまずいて進まない。
「………っ!」
品のない言葉を呟き、月を見上げる。
日々姿を変える彼女は満ち満ちている。
その光が反射したように、道端の石が一列に、燐かな光を放った。
まるで、何かの童話のようだ。
「…リュー?」
罠でも何でも、彼女の元に行けるならば良い。
オオドリはそれを頼りに走り出した。


 神の<御使い>ともなる人狼にまつわる良くない噂。
「野に堕ちれば、若い女をさらって犯す」



ぴしゃん…

水滴が頬に当たり、リューは目を覚ました。
獣の匂いが立ちこめ、空気はひんやりとしている。
「…どこ?オオドリ君?」
寝ぼけ声で起き上がる。
ごつごつとした岩肌に、枯れ草が敷かれている。
どこかの洞窟?
ぐるっと見渡すと、数十の目がリューに向かっており、さすがに一瞬身をすくませた。
「お、目、覚めたか」
知らぬ声が、降る。
したっと身軽に降りてくる。
ぽうっと光が灯る。
狼の顔と手足。
人間の体。
その手には酒と杯が握られていた。
「飲め。特製だぞ」
リューはふるふると首を振る。
「オオドリ君は?」
リューの問いに答えず、品のない笑いを浮かべる。
「まぁ、飲みなって」
リューのあごを押さえ、無理矢理口に酒を注ぎ込む。
「んっはっ…」
げほげほと咳き込むが、全てを吐き出すことはできない。
くらくらと世界が歪んだ。
体中が火がついたように熱い。
「へへっ!やっぱこの酒は効くなぁ」
くてん、と目を回したリューを抱え、人狼は笑った。
大きくその香りをかぐ。
「ま、予想してたよりガキだが」
リューの髪をほどき、ローブをはぐ。
眠っている女を犯しても面白くないが、魔術師姿の者を正気で抱くほど馬鹿でもない。
酒で、抵抗する力を奪い、反応だけを楽しもうというのだ。
泣きわめけば泣きわめくほど、胸がすく。
かすかな胸を膨らみを強く掴むと、小さく苦痛の声がもれた。
酔いが回って理性の制御がきかいない。
人狼は嬉々として服をはぎ、リューの肌を舐める。
「ん…っ」
無意識に抗い、その指先が複雑な形に動いた。
ごぉっっと洞窟の中を風が逆巻いた。リューからかなり離れた所まで、人狼が吹き飛ぶ。
「…なっんだぁ!?」
まぬけな声で壁にしがみつく。
リューがけだるそうに上体を起こす。いや、起こされた。風の中に淡く姿を映した何者かに。
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