第一部

□T-1 謎を深める件
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「きゃ〜〜〜Vv」
 商業省都市にたどり着き、様々な店が並ぶのを見て、リューが歓声を上げた。
「リュー、もう少し静かに…」
オオドリは顔をしかめる。子守の気分だ。
「オオドリ君、オオドリ君!こっち!」
はしゃぐリューが、人混みに紛れていく。
「リュー!」
炎天下、厚着をしている身なので、むやみに振り回されてはたまらない。

…このまま、一方的に別れることも可能だ。

ふと、何かが囁いた。
だが、それにためらう何かもいる。
「………………………」
イライラしながらも、オオドリは人混みをかき分け、小さな同行者を追い掛けた。



「オオドリ君、これ!かわいい!」
装飾品店で気に入ったブローチを、オオドリに見せる。
他の形容を知らないのか?と疑いつつ、オオドリは
「確かに美しいが、必要ではない」
キッパリ言い切った。リューはしゅーん…と
「かわいいのに…」
ブローチに頬ずりする。
オオドリは一瞬目眩がした。手に入れるまで、居座りそうな気配。
日は中天に達し、これからの2時間が一番暑い時間帯になる。
それを、この、ごった返しの中で…?
「…これを、いただく」
オオドリは店番を手招いた。
「はい、ありがとうございます。ええっと…?」
店番は日に透かすすように、ブローチを2、3度ひっくり返す。
「どうかしたか?」
オオドリの問いに店番は慌ててイエッと返す。
予想していたよりも、高いものではなかった。
宿を少し節約すれば支障ない。
そう安い品でもなさそうだが、わざわざ値上げする必要もない。
「リュー、ここはこれで終わりだ」
ブローチを渡す。
「うわぁい!ありがとう、オオドリ君!」
「喜んでいただけて幸いだ」
はしゃぐリューに、素っ気なく言い、押すように店から出した。
そして、人混みの流れにのる。
その流れが早く、賑やかだったため、「あんな品あったっけ?」という店番の呟きが、二人の耳に届くことはなかった。



 街が夕暮れに染まり、宿屋の客引きの声が、多数上がる。
オオドリはその中で少し安い宿を選んだ。
支障はないだろう、とリューと同室で済ます。
「長居をするつもりはないが…この街で何をする?」
荷を整頓しながらリューに尋ねた。
「何って、オオドリ君、今まで
何してたの?」
「情報を集めた。呪いを解く方法、それを知る者、実行可能な者の事……。成果はないがな」
それどころか、得体の知れない少女の子守まで……。
心の中で思ったが、さすがに口には出さない。
「マイナーだもんね。教会とか魔術師協会行ってダメだったんでしょ?」
「ああ。かなり珍しい植物だったらしい。
国の魔術師には『その植物は確認されていません』の一言で片付けられた」
「それに引っかかるなんて、オオドリ君、運悪いよね…」
ポソリ、と気に障る事を言う。
リューはハッとして防御の姿勢を取った。
だがオオドリは口でも行動でも反撃せず、深く息をついた。
運の悪い証拠に、こうして、呪われた姿のまま、正体不明の少女といる……。
 オオドリは話を切り上げ、テラスヘ移動した。柵に寄りかかる。眼下に広がる街並み。
薄地の服の通行人に、数ヶ月前
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