第一部

□T-1 謎を深める件
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 それは、のどかというか、かしましいというか。
リューは道中、ちょっとした事で、オオドリを呼び、報告する。

水の流れている音がするよ、
あの木の先の丸いのは鳥の巣だよね、
枯れた木のウロに、別の木が生えることもあるんだってね、
すごく暖かい所には巨大迷路のような根を持つ樹が、あるんだって
木に生えた苔の色がきれいだよ、
同じ鳥でも、鳴き方が違うね、
これは何の足跡だと思う?

個性的な看板に注目したり、見るもの、思いついた事をとりとめなく話していく。

 大抵はリューが一方的に話しているが、まれに、オオドリがそれに注目したときは、黙って、同じものを見て、聴いた。
どこか、嬉しそうに。

 そして、晴れた日に人気のない場所にくると、オオドリに飛翔をねだる。

「出会ったときのが特別だったのだ」と断っても、リューは笑顔で。
折れるのはいつも、オオドリだった。

「そんなに好きか?」

地上を俯瞰し、オオドリが問うた。
リューの頬がポッと桃色に染まる。
オオドリの訝しげな表情に、慌てて
「うん、オオドリ君。だって、気持ちいいよ?」
取り繕う。
「お日様はすごく眩しいし、風の流れていく感じも爽やかだし…」
必ずオオドリ君に抱っこしてもらえるし。
オオドリは首をひねった。
「……私は、慣れたくはない…」
小さく、呟く。
「…望んで得たものじゃないもんね」
そう応えたリューの声は柔らかく、どこか寂しそうに聞こえた。
だが。
「でも、あーちゃんは飛べないので、これからもきっとおねだりするよー!」
笑顔でキッパリ宣告する。
「………。魔術で、飛べないのか?
空飛ぶほうきとか」
「多分、あるんだろうけど、あーちゃん興味なかったから知らなーい∨」
「…………興味の問題なのか」
「うん、独学だからねー」
呆れたオオドリに、あっさりと返す。
(独学?)
「誰にも師事してないのか?」
道中、数に任せて襲ってきた追いはぎの類を、わずかな魔術で大きなの効果を生み出し、撃退した。
『高位』だと、素人目にも納得する見事な魔術を、独学で?
「うん。居候先の書庫の本を読み漁ったくらいかな?
協力者はいたけどね」
「……………」
それは、真面目にやって未だ低位の魔術師が聞いたら怒るか、泣き出すのではなかろうか。
「その年で、凄い才能だな」
「…あっち側に半分踏み込んでるからね」
あっち側って、どっちだ。
「…ナイショ」
オオドリの考えを読みとったように、くすりと笑った。
むすっとするオオドリに、リューは笑みを重ねる。
「少なくとも、神様愛好側じゃないね。追い出されたし」
「そんなサイドがあるのか」
呆れ声に
「修道院、神殿、教会…」
指折り数えるリュー。
「不敬な……まさか…?」
「あーちゃんみたいなシスターに懺悔したかった?」
 青ざめるオオドリをからかうように首を傾げる。
オオドリはショックで、それどころでなかったが、とても可愛い仕草だ。
「行儀見習いで入っただけなんだけどね」
神様に操を捧げる、<神の家>の住人達をこきおろす。
 よくよく聞けば、その姿は聖職者としてはとても模範的なものなのだが。
「あんまり感性が合わなくて、話にならなかったよ」
そして、追い出されたし、逃げ出した。
互いに、負荷の少ない選択をした。
「魔術師協会は、多少の系統はあっても、神様関係よりはゆるいか
ら、まだましだよ」
たとえ、「悪」「小ずるい」「不気味」と呼ばれることがあろうとも。
まるで、魔術が避難所のような口ぶり。オオドリがまじまじと見ると、リューは顔をゆるめた。
「あのね、神族と魔族は、本質的には同じなんだと思うんだ。
人間にとって迷惑な事ばかりすると魔族、良い事をすると神とか。方向性が違うだけで」

オオドリの翼に腕を伸ばす。
「ただの人間が、手に負えないのは、どっちも同じ」



それでも、祈る。

疑念を挟む者は排除して。
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