第一部

□Ex.ω 呪受者の事情
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 よく手入れされた庭。
部屋に飾る花を摘んでいた姫君が、庭を眺めながら歩く騎士に気付いた。
休暇中のためか、とてもゆっくりと、歩いている。
まだ姫君には気づいていない。
「オード!」
「……アトリア?」
大きく手を振る姫に気付き、騎士が歩み寄る。
それはまるでタぺストリーの題材になりそうな、光景。だが。
「何か用か」
騎士は愛想が十分ではない。
「婚約者に向かって、そんな冷たい言い方しないで?」
幼なじみであるがゆえ、騎士の性格を知っている姫は苦笑した。
「……用ではないのか?」
腕を組みかけ、
「私の前で腕を組まないで」
姫の言葉に、素直に従い腕をおろす。
少し所在なげになる騎士を、姫が見上げる。

姿なら、宮廷でも一、二を争う秀麗さ。
形式試合で上位に入ることも多く、近衛として王の覚えもめでたい。
その額飾りは恩賜で、瞳と同じ色の輝石と、貴重な丸い真珠があしらわれている。
とても有望な騎士だ。
…なのに、浮いた噂が一つもない。
夜会では常に誰かと踊っているが、相手とは、それっきり。
同僚からは相手を捕まえる気迫が無い、と指摘されていた。
適齢期になっても身を固める気配はなく、体面を気にした親から、幼なじみのアトリアへ、話が来た。
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