番外編

□夜の影
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 時間が正しく刻まれるようになった、その日。

常葉の従妹姫と呪いを受けていた騎士が、
神々の不条理な律に終止符を打ち、
愚かしい魔法使いの意地悪を乗り越えて、唯一の姫と騎士として、出会い
輝かしい二人は、端から見ればじゃれ合いのような問答の末に、
相愛の誓いを交わした。



「―――クソッ」
 二人の行く末を見ていた魔法使いは、忌々しげに中継を閉じた。
部屋を出て、ドスドスと足音を立てて広間に向かう。
従妹姫と騎士を迎えるために。
その後を付いていく精霊が、首を傾げる。
「…キスで嫉妬していたら、この先どうしますの?ユプシロン」
グサリ。
魔法使いの動きが止まった。ギギギと振り返る。
急所を突かれ、想像だけで半泣きだ。
「エルライ、意地悪になったね…」
「誰のせいだと思います?」
にっこり。
「俺のせいにするのは…正当だな。」
数々の意地悪を見せてきた。
「あーあ…」
魔法使いの溜息に、精霊は苦笑した。



「マーセナリィの勝ちだよ。婿として認めてやる」
 呼び戻し、ぴったりと寄り添う騎士と従妹姫に、魔法使いは不機嫌きわまる顔で宣言する。
宴での約束通り、両手を挙げて迎えたが、決して『万歳(バンザイ)』には見えない。
彼の精霊が付き合いで一緒に上げているせいか、どちらかというと『降参(こうさん)』だ。
だが、彼の逆鱗(げきりん)にこれ以上触れないよう、騎士はどうしても気になる1点だけ確認するに留めた。
「やはり、『婿』?」
「不服か?」
魔法使いはギロリと眼光鋭く騎士を射貫く。
「土地は無いが、財は十分にあるぞ。
王との縁切りも、丁寧に、遺恨(いこん)なき交渉を協力してやろう。
それとも呪受(じゅじゅ)の時点でお前を見切った主君や親が恋しいか?
何と言っても故郷だものな」
「ゆーちゃん言い過ぎ!」
従妹姫がぽこん、と魔法使いを叩く。
「叩くなよ」
騎士の腕に抱きついていなければ、抱き上げかねない表情で、膝を折り、従妹姫を見上げる。
ほんの数時間前までは、それで、二人の目線は同じ高さだったのだ。

 彼女の身に起きた『奇跡』。
 彼女らに起きた『悲喜劇』。
 それは、もう、この世界でも、『御伽話』の様。

「精霊や魔物がほとんど『伝説』にされる国に、お前が馴染めるか?
魔術師も少ない。
騎士が剣を振るう相手も、魔物ではなく人間だ。」
「い、行ってみなきゃ分かんないよ!」
「俺は許さん。お前が要らん苦労をするのは」

きっぱり。

あまりにも簡潔な言葉。
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