番外編

□放浪詩人の日記
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火の月/一角獣の日

 アントリアェの森で盗賊に襲われた
 「愛と涙はどちらが高い」というフレーズを考えてぼーっとしている所を襲撃された。
 体と琴以上に大事なものは持ってなかったから下手な抵抗はしないでおいた。
賊は少年で、この子なら何というか試しに訊くと、ひどく困惑したようで、上着と財布だけで解放してくれた。
 薄着のまま町に入って店で歌っていたら、扇情的(せんじょうてき)な衣装の女性が愛の歌をリクエストした。店が閉まる頃、
件(くだん)の女性が
「吟遊詩人てこういうのも仕事よね」
と、ややムキになって誘ってきたので甘い言葉を囁いて、御馳走になった。
 彼女に「愛と涙」を尋ねると、目に見えるから涙の方が良い、との事だった。
朝方送り出してくれた時、夏でも夜は冷える、と上着をプレゼントしてくれた。目に見える、彼女の心だ。


火の月/獅子の日

 アステリオンの夏祭り
 相変わらず大人しい街並みだ。
夏祭りも今一つ盛り上がりきれてない気がする。
しかし待ち合せ中だという少女は楽しそうだった。
過ぎ去る旅人と思い口がゆるんだのだろう、小さな声で身の上を話した。
去年の夏まで孤児院にいたそうでこの街の商家に養女として迎えられたのだという。
孤児院時代は集団で祭に行ったので白い目で見られたり何か盗むのではないかとじっと監視されてて
楽しくなかったという。
養女に迎えた家は、一人娘を事故で失い、その代わりに少女を引き取ったのだという。
行儀作法に厳しいけど、本当の娘のように思われてると思えば辛(つら)くないと。
少女は亡くなった娘に似ているらしい。
名もキィと変えられたけど、その方が孤児院の頃の自分とは違う、いう感じがして良いと笑った。
 何か、記憶に引っかかったが、少女は友人の呼びかけに応じ、一礼すると祭の輪に入っていった。
 アステリオンの空気が、祭の熱気でも押し退けられない程重く感じたのは…オレだけだろうか。
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