番外編

□Forget me not
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Forget me not
―― いと ちいさき てのひら ――



 森を深く満たした朝霧が、朝日に場を譲り始める。
精に満ちた水を浴び、充ち満ちた草木が、朝日にそっとその裾分けををして、白く輝く。
きらり、きらりと。
白露の促しに応じて、眠っていた淑女がふた、ふた、と長い金の睫毛を揺らす。
森の滋味を味わうように、深く、深く、息を吸う。
その左の薬指にはアクアマリンを冠する指輪と白金の指輪を重ねる。
その瞳と同じように、鮮やかな空色。
そして彼女が大きく伸びをして、朝を迎えた喜びを旋律にすると、
森の全てが彼女との朝を歓迎し、
夜に生きるものは、子守歌として夢路に着いた。


彼女は森の愛し子。
今となっては神の祝福を受ける国の若き王妃。
大きな催事の終わるごとに、森へ帰り、在るがままに帰る。
こどものように、自由に。
おさなごのように、ただ生を甘受する。
愛する森の精霊達と共に。

初夏の
爽やかな朝
穏やかな昼、
懐かしい夕べが、彼女を満たす。

そして愛する精霊達は、数々の命を物語として彼女に語る。



その手に、小さな命が抱かれた年、古き精霊のひとりが語り始めた。

この森の最初の<祝福>を。




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